前回は臨床診断でインフルエンザを診断した時、どの程度正確に診断できるのか講義をしてみました。まだ読んでいない方は参照してみてください。
今回の講義の内容は迅速検査で、どの程度診断できるのか、EBMに則って調べていきたいと思います。
迅速検査で、どの程度正確に診断できるのか?
前回の続きの講義なので、導入の症例は飛ばして早速論文の紹介に入っていきましょう。今回紹介する論文は2017年にClinical Infectious Diseaseから出たシステマティックレビューとメタアナリシスです。この論文ではインフルエンザ以外の迅速検査も扱っているのですが、インフルエンザの部分のみ紹介します。
筆者たちはMedlineとEMBASEをつかって呼吸器ウイルス感染症の迅速検査に関する論文を調べました。ちゃんとPCRがリファレンスとして使用されている論文という条件も付けています。前回の紹介したリンパ濾胞の論文では、ちゃんと全例PCRが行われていませんでした。なので、こういった”ガイドラインに影響及ぼすようなシステマティックレビュー”には扱われません。まぁ、ということでダメですよね。
その結果、134のインフルエンザを扱っている論文を見つけました。
研究の質について
まず筆者たちは研究の質を調べました。そこで、この迅速検査の論文ではInclusion & Exclusion Criteriaがちゃんと定義されていないことが多いことに気が付きます。実際にどんな患者を対象にしているのか分からないと迅速検査が使えるのか分かりませんよね。もう一つ、たった37論文(RSVの論文の含めての数:全体の29.6%)しか、Point of care、つまり診察室で行われたと記載していませんでした。つまり、ほかの論文では検査室で行われた研究のため、迅速検査の結果の解釈時にPCRの結果を知っていた可能性があります。確かに色が薄く出た時に陽性か陰性か迷う時がありますよね。そんな時にはPCRの結果を知っていると影響を受けそうです。うーん、お粗末。
インフルエンザの迅速検査の感度、特異度
インフルエンザに対する迅速検査の感度は61.1%、特異度は98.9%という結果でした。インフルエンザ患者のうち、迅速検査すると10人中4人は見逃しますが、検査陽性ならほぼインフルエンザと診断して良さそうですね。
インフルエンザ型や年齢で感度、特異度に影響があるか?
インフルエンザAに対する感度は68%、インフルエンザBでは71%でした。ややインフルエンザBのほうが感度高いんですね。インフルエンザの型に関しては、多くの迅速検査でH1N1インフルエンザを扱っていて、感度は54%でした。まぁ、2人に1人のH1N1インフルエンザを見逃すって、迅速検査を使う気なくしますね。特異度はいずれも99%前後でした。
年齢では小児の感度が66%であった一方、成人では34%。
34%っていうと、インフルエンザ10人のうち3人のみしか陽性にならない検査。
迅速検査を使う気がなくなりますね。
あれ、普段使っている迅速検査の結果と違くない?
論文を読んでいて頭が少し混乱してきました。いろいろな製品が売られていますが、どの迅速検査もほぼ100%正しく診断できる?というようなことを書いてあります。
まさか、日本では技術が進み、欧米で発表されていないような画期的な迅速検査が、日本でのみこっそり売られているのでしょうか?
分かりません。ということで、論文を読んでみましょう。
迅速検査の企業が参照論文として使っている論文より
ここで、当院で使っている迅速検査の根拠となっている論文を読んでみましょう。大丈夫です。企業から一円もお金をもらっていません。論文は送ってもらいましたが。
この論文は前回のインフルエンザの診断の部分でも使用させてもらいました。2007年~2008年に福岡の小児科医院でインフルエンザを疑われた人を対象に、自社と他社の迅速検査とウイルス分離を全例に行いました。
結果ですが、自社製の迅速検査はウイルス培養をリファレンスにして、感度97%、特異度94.9%でした。とても、よい研究結果のように思えます。
しかし、ここで問題になるのは2点です。
小児が対象のため、成人より感度が高く出やすい
小児対象に行われているので、一般的に感度が高く出やすいです。大人では感度はどの程度になるのでしょうか?この研究からは分かりません。
研究のInclusion&Exclusion Criteriaが不明瞭
インフルエンザを疑われた人という、不明瞭な基準です。誰が、どの時点で、どんな症状が認められたら対象になるのでしょうか?どんな患者は除外されるのでしょうか?
前回の講義内容ですが、臨床症状からインフルエンザを診断しようとすると、だいたい60~70%しか当たりません。少なくとも30%インフルエンザは研究から除外されているでしょう。
先の述べたシステマティックレビューで、不明瞭な研究対象基準が問題になっていましたが、こういった事なんですね。
<参考文献>
新しい技術白金-金コロイドを用いたインフルエンザ 迅速診断キット“イムノエースFlu”の評価 臨床と研究 2008 (ネット上には公開されておりませんでした)
インフルエンザ診断:まとめ 臨床診断 VS 迅速検査
インフルエンザの診断をする場合、臨床診断のみで行うのか、迅速検査にしたがって行うのか迷うと思います。大まかにいって、症状から行う臨床診断のみで診断した場合、感度は60~70%程度でしょうか。ただし、1~4歳児ではインフルエンザの症状が人によって多様な症状がでるため、症状で他のウイルス感染症と区別をつけるのは難しいです。
そして、インフルエンザに特徴的な身体所見は現時点ではなさそうです。リンパ濾胞は?という方は、前回の講義を参照ください。
一方、迅速検査は感度は60%と同じですが、特異度が99%程度あるので、この点では臨床診断より優れていそうです。
ここまでで、迅速検査に傾きつつあると思いますが、成人のみに対象患者を限定すると迅速検査の感度は30%程度しかありません。10人のインフルエンザの患者が来たら、7人は検査陰性ですよ。こりゃヤバイ。
そうすると成人では臨床診断に傾いてくると思います。ですが、ここも一筋縄ではいきません。来院時発熱を認めた場合、僕たちはインフルエンザと診断しそうですが、発熱を認めるインフルエンザの患者は70%しかいません。発熱+咳嗽を起こしているインフルエンザの患者は66%のみです。うーん、微妙。このインフルエンザの流行する時期は、他のウイルス疾患も流行します。他のウイルスでも同じように発熱+咳嗽を33%は呈します。
というと、症状も診断には決め手が欠けますね。
まとめるなら、
①感度は発熱と咳嗽から診断しても、迅速検査を行っても、だいたい60%くらい
②ただし、大人に対する迅速検査は感度30%くらい
③迅速検査のいいところは、特異度が高く、陽性ならほぼインフルエンザと診断できる。
④症状から診察する場合の難しい点は、診察時に発熱が認められる症例は70%のみ
ということでしょうか。
診断はどの程度正確にしたらいいの?
インフルエンザの臨床診断と迅速検査による診断を比較してきました。性格に診断するのは、どっちを使っても難しいということが分かったと思います。
ここまでくると、「インフルエンザは本当に正確に診断しないといけないの?」ということが気になってきませんか?
つまり、インフルエンザの治療しないといけない患者群は?ということですよね。
ということで、次回はインフルエンザの治療についてやっていきましょう。
今回の講義も動画にしてあります。
お時間がある方はどうぞ。
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