分かる!左脚ブロックの心電図

心電図基礎講座
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前回は右脚ブロックについて解説していきましたが、今回は左脚ブロックです。
左脚ブロックと右脚ブロックは、「どっちかな?」と混乱しちゃいそうですけど、前回と同じように病態生理を少しずつ考えていけば、区別がつくようになります。
ということで、講義を始めましょう。

症例75歳 男性 肺炎のために入院

あなたが働く内科病棟で新しい患者さんが入院してきました。現在は肺炎を患っており、胸部症状はなさそうです。入院時の心電図をチェックしていた看護師さんが、びっくりしてやってきました。以下に心電図を示します。

確かに、いつもの正常な心電図とは違っています。
「先生、ここをよく見てください。」と言って胸部誘導を看護師さんがさしています。

確かにV1~3でST上昇がみられそうです。
患者さんに今は症状はないのですが、無症候性の心筋梗塞なのでしょうか?
さて、何の心電図なのでしょうか?

この心電図は左脚ブロックの心電図でした。
ST上昇は異常所見ではないのでしょうか?
まず、この左脚ブロックの典型的な所見をまとめていこうと思います。

左脚ブロックの心電図所見

左脚ブロックの典型的な所見は、V1で深いS波です。また、Ⅰ,aVL,V5,6の心臓を横から見ている誘導で、幅の広いR波がみられます。R波分裂や結節(ノッチ)を認めることもあります。また、通常、側方誘導では小さなQ波がみられるのですが、Q波がありません。
QRS間隔が120ms(3mm)より大きく、心室内の伝導障害を認めます。(QRS幅が3㎜以下の左脚ブロックでは、不完全左脚ブロックと言います)

う~ん、所見を並べただけだと覚えにくいですね。
こんな時は、どうしてこんな波形になったのか、一つ一つ解説していきましょう。

左脚ブロックの時にⅠ,aVL,V5,6で幅の広いR波になる理由

まずは通常の状態では、どのように電気信号がながれているのか理解していきましょう。

特に伝導障害がない場合、洞房結節で発生した電気信号は、洞房結節→左房→房室結節に伝わります。その後、房室結節からHIS束へ伝わり、左脚と右脚を通って、左心室と右心室にそれぞれ同時に電気信号が伝わります。

電気信号は左心室、右心室には同時に伝わるのですが、心室中隔は左から右に興奮(脱分極)します。そうすると、心臓を側方(Ⅰ,aVL,V5,6)から見た場合には、小さなQ波がみられることがあります(上の心電図の赤い矢印の部分です)。このように小さなQ波がみられない場合もあるのですが、通常はこの小さなQ波が側方の誘導でみられると覚えておいてください。

では、左脚ブロックが起こった場合には、どんなことが起こっているのかみていきましょう。

①電気信号が右室に伝わる

房室結節までやってきた電気信号は、HIS束を通って左脚、右脚までやってきます。左脚は障害されているので電気が流れません。右脚は障害されていないので、電気信号はそのまま右心室に伝わります。

②左心室に心室中隔を通って、遅れて電気信号が伝わる

左心室に電気信号が伝わらなかったため、右心室から左心室に心室中隔を通じて電気信号が伝わります。正常の伝導路を通っていないため、右心室より左心室には遅れて電気信号がやってきます。

Ⅰ,aVL,V5,6で幅の広いR波が出来る理由

今まで述べてきたように左脚ブロックでは、上の図の赤い矢印の方向に電気信号が流れます。このため、心臓を横からみた誘導(Ⅰ,aVL,V5,6)に向かってくるように電気信号が流れます。
通常では心室中隔は左→右というように興奮(脱分極)するため、Ⅰ,aVL,V5,6で小さなQ波がみられるのでした。しかし、左脚ブロックでは右から左へ興奮していくので、このQ波がみられなくなります。

左脚ブロックの心電図をみながら、もう一度解説していきましょう。先ほどの患者さんのV5,6を拡大しています。V6に幅の広い単相性のR波がみられます。これは右心室が興奮してできたR波と左心室が遅れて興奮して出来たR波が合成されています。V5を見てみるとM字型のR波(二相性)がみえます。初めのR波の山が右心室由来、次のR波の山は左心室由来です。

V1が深いS波になる理由

V1が深いS波になる理由ですが、また心臓内で流れる電気信号の方向を考えてみましょう。上の右図のように電気信号は右室から左室へ心室中隔を通じて流れます。
この電気信号の方向を心臓を輪切りにしてみた図が左側の図です。心臓を横から見てみると、左の図の矢印の方向に電気信号が流れます。

この電気信号の流れをV1からみると、離れる方向になりますよね。そうすると基線より下に記録されることになるので、深いS波がみられることになります。

この基線や誘導のみている電気信号の流れが混乱しちゃった人は、以前の講義の復習をしてみてください。

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このように考えていくと左脚ブロックの心電図が、どうしてこんな心電図になるのか理解できたでしょうか?「V5,6で幅の広いR波(M字型のQRS)がみられたら、左脚ブロックだな。」と覚えたらよいと思いますが、もし右脚ブロックと迷った時は、もう一度、今の内容を思い出してみるようにしてみてください。

左脚ブロックの時に波形のバリエーション

この辺りは僕だけなのかもしれないけど、右脚ブロックと比較して左脚ブロックの時は波形にいろいろなバリエーションがあって、ぱっと見、左脚ブロックって認識できなかったりする時があります。僕のように間違えないためにも、ここでどんなバリエーションがあるのか、まとめておきましょう。

側方誘導のバリエーション

側方誘導(Ⅰ,aVL,V5,6)では幅広いR波がみられるのですが、様々なパターンがあります。まずは今回の患者さんのⅠ誘導、V5誘導でみられているM字型のQRS波でしょう。ここは右脚ブロックと似ていますね。Mの初めの山は右心室由来で、2つ目の山は左心室由来でした。この右心室由来のR波と左心室由来のR波が合成されると、V6でみられる単相性のR波になります。

それ以外では、aVLでみられる結節型(ノッチ型)のQRS波だったり、例では挙げてませんが、RSパターンを示すこともあります。

V1のバリエーション

一方、V1にはあまりバリエーションがありません。今回の患者さんは、R波のないQSパターンです。また、他のパターンでは、小さなR波のあるrSパターンになります。
左脚ブロックではV1では、R波がほとんどない、または全くないと覚えておいてよいと思います。

前胸部誘導でST上昇?~Appropriate Discordanceについて~

さて、もう一度、初めの心電図に戻ってみましょう。そもそも、看護師さんから相談を受けたのは前胸部誘導でST上昇がみられるからでした。確かに一見、派手にV1~3でST上昇がみられます。これはすぐに循環器の先生を呼ばないといけないのでしょうか?

Appropriate Discordanceについて

このST上昇は、前回の右脚ブロックのことろで出てきたAppropriate Discordanceと呼ばれる現象です。意味は、「異常な脱分極が起こった後には、元々のQRS波と一致しない再分極をすること」です。分かりませんね。
左脚ブロックではAppropriate Discordanceのために、V1~3で深いS波がある誘導ではST上昇がみられます。一般的にいって、深いS波の25%以内だった場合では正常だと言われています。Ⅰ,aVL,V5~6の幅の広いR波がみられる誘導では、ST低下や陰性T波がみられます。

一見すると心筋梗塞の心電図ようにみえるので注意するようにしてみてください。
じゃ、左脚ブロックに急性心筋梗塞が起こった場合には、どうするんだって思った方は、以前の講義を参照してみてください。

心筋梗塞の心電図:左脚ブロック合併した場合
今回は左脚ブロック+心筋梗塞の時の心電図の読み方の講義です。有名なSgarbossa Criteriaなど紹介しているので、ぜひ押さえておいてください。

左脚ブロックの原因疾患

最後に左脚ブロックの原因疾患をみていきましょう。右脚ブロックでは、ほとんど基礎疾患を認めませんでしたが、左脚ブロックでは様々な基礎疾患を認めます
虚血性心疾患や慢性の高血圧、拡張型心筋症が原因で起こります。
また、急性の前壁梗塞に伴って左脚ブロックが起こることがあります。

ということで、今回の講義はどうだったでしょうか?
次回の講義も楽しみしておいてください。

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