さて、今回はやっとメジャーな不整脈の一つをやっていきましょう。アブレーションのよい適応になるので、臨床的で非常に重要な不整脈の一つですよね。
心房粗動は英語では”Atrial flutter”と呼ばれ、AFLと略されて呼ばれています。心房細動は英語でAtrial fibrillationと呼ばれるため、略語はAfでした。
今回は、心房粗動の特徴的な心電図所見をおぼえてもらいながら、その機序についても勉強します。また、他の頻脈性不整脈との鑑別や、心房細動との鑑別についてもやっていこうと思います。
ということで、心房粗動をわかりやすく解説していきましょう。
症例 64歳 男性 動悸
あなたが救急外来で当直していると動悸を訴えて来院しました。今は少し落ち着いてきているようです。来院時に心電図を以下に示します。
少し見ただけでも特徴的な所見が、いくつか目立っていますね。
P波とQRS波の関係を丁寧にみるためにⅡ誘導を拡大してみましょう。
こちらは先ほどの心電図のⅡ誘導を拡大した図です。☆がRR間隔を示していますが、規則正しくR波がやってきていることが分かります。また、QRS波の幅は3mm未満なので狭いです。
心拍数は1500/23=65bpmくらいでしょうか?
P波はよくわかりません。
Ⅱ誘導でP波が分からなかったので、心房細動を疑って、V1を拡大してみました。こちらでは、規則正しくP波のような波形がみられています。
この心電図は何の心電図でしょうか?
この心電図は、心房粗動の心電図でした。
心房粗動の特徴的な心電図所見
心房粗動の特徴は、QRS幅の狭い頻脈です。通常はRR間隔が整です。Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導で特徴的なのこぎりの歯のようなF波がみられます。このため、基線が確認できず、P波もみつけることが出来ません。F波は右房内のリエントリー回路をグルグル回っている電気信号を表していて、F波はだいたい300bpm(200~400bpm)です。
QRS波は、このF波がどの比率で心室に伝わっているのかによってきまっていて、もっとも一般的なのは、2:1(2回F波が来くると、1回心室に伝わる)です。これは、房室結節が頻脈にならないようにするために電気信号が伝わるのをブロックしています。このように伝導比率が決まっているため、心房粗動は上記のようなRR間隔が整の不整脈になります。ただし、様々な伝導比率が混在していることがあり、上の図のように2:1や4:1が混在していると一見、心房細動のように見えるため注意してください。
交感神経刺激や副伝導路が存在する場合には、1:1の心房粗動が起こることがあります(特にWPW症候群に房室伝導を障害するような薬剤が投与された場合)。この場合、循環動態が不安定になり、心室細動に移行する可能性があります。
心房粗動の時に起こっている電気活動
心房粗動の心電図を理解するために、どんな電気的活動が心臓で起こっているのか、見ていきましょう。
心房粗動では、右心房内にリエントリー回路が出来ています(リエントリー回路については、後日説明します)。異常な電気の通り道と、今は簡単に理解しておいてください。
この異常な電気の通り道が三尖弁をぐるっと取り囲むように出来ています。
このため、心房粗動では常にこの異常な電気の通り道(リエントリー回路)に電気信号がぐるぐる回っている状態です。この回っている電気信号の向きも実は明らかになっています。上の図では、時計回りにみえますが、通常右心室からみるため、三尖弁周囲を反時計回りに電気が回っています。
このぐるぐる回っている電気信号が房室結節に電気を送ります。房室結節では、すべて心室に電気信号を送ってしまうと高度な頻脈になって危険なため、通常2回に1回程度しか電気信号を流しません。内服している抗不整脈薬や心疾患によって、この伝導比率が4:1~3:1になったりします。
心房粗動の分類
心房粗動には大きく分けて2つのタイプが存在します。
通常型と非通常型です。
以下で詳しくみていきましょう。
通常型(Common)反時計回り
通常型(Commonと呼んでいます)では、さっきのリエントリー回路を電気信号が反時計周り(右心室内から見て)に回っています。全体の90%の心房粗動は、このタイプです。特徴はⅡ、Ⅲ、aVF誘導で、F波が陰性に見えます(基線がないため、”陰性”なのか分かりにくいです)。V1誘導をみると、F波が一見P波のようにみえます。
通常型(Common)時計周り
通常型(Common)のもう一つのタイプが、リエントリー回路を電気信号が時計回りに回るパターンです(右心室からみて)。先ほどの反時計回りタイプと異なり、Ⅱ、Ⅲ、aVFでF波が”陽性”のようにみえます。また、V1をみてみると、先ほどとは違って、陰性P波のようにみえます。
非通常型(Uncommon型)
非通常型(Uncommon)は、通常型の特徴を満たさない心房粗動です。このタイプは高度な頻脈を起こしたり、脈が不安定であったりします。一般的にアブレーション治療に反応しやすいと言われています。
頻脈の時に、心房粗動をみつける方法
心房粗動の伝導比率が4:1の場合には、HR75bpm程度になるため、心房粗動か心房細動かRR間隔を見ながら鑑別していけば良いですが、伝導比率が2:1であった場合には、上室性頻脈との鑑別が問題になってきます。どのように鑑別していくのか順を追ってみていきましょう。
①QRSの幅の狭い頻脈を見つけたら、心房粗動を疑う
2:1の心房粗動は他の頻脈性不整脈との鑑別が難しいですが、上記のようにQRS間隔が狭い頻脈になります。また、心拍数が一定であり、150bpm前後をずっと保っています(上の図のように他の伝導比率が混在する場合には注意が必要です)。一般的にいって、洞性頻脈では心拍数がちょっとずつ変化していたりします。また、房室結節リエントリー性頻拍や、房室リエントリー性頻拍では、心房粗動より心拍数が早く、だいたい170~250bpmになります。
②Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導でF波を探す
①で心房粗動を疑ったら、次にⅡ、Ⅲ、aVF誘導でF波を探します。2:1誘導の時は、F波がP波やT波のようにみえてしまうので難しいですね。そんな時は、心電図を上下さかさまにしてみましょう。そうすると分かりやすくなったりしますが、どうでしょう?
少しF波が分かりやすくなりました?
③迷走神経を刺激したり、アデノシン投与をしてみよう
上記の①②をしても分からないことがあります。その時は鑑別のために、迷走神経を刺激してみたり(バルサルバ法や咳払い、冷たい水を顔につけるなど)、アデノシンを投与したりします。もし房室結節リエントリー性頻拍や、房室リエントリー性頻拍であった場合には洞調律に戻ったりします。また、房室ブロックが起こるため、QRS波が減り、洞性頻脈なのか、F波が見えて心房粗動なのか鑑別することが出来ます。
心房細動との鑑別について
ここでは心房細動との鑑別のポイントについて学んでいきましょう。
この心電図は心房粗動でしょうか?
一見するとQRSの幅が狭く、V1でF波のようにみえるため、心房粗動にみえてしまいます。
でも、よくみると、RR間隔は不整です。RR間隔が整というのが心房粗動の特徴の一つです。
V1でF波にみえた基線の揺れも、HR300で一定というわけではなさそうです。
それに、F波が確認されるのは、通常はⅡ、Ⅲ、aVF誘導でしたね。
これは、心房細動の心電図になります。
心房細動との鑑別点まとめ
①心房細動ではRR間隔不整 心房粗動はRR間隔整
②心房粗動のF波はⅡ、Ⅲ、aVFでみえる
一方、心房細動のf波はV1誘導でみえる
練習問題
ここからは今回の講義で使った心電図を振り返りながら、心房粗動の心電図をみていきましょう
①症例 64歳 男性 動悸
これは症例として挙げた心電図です。
QRS間隔が狭く、RR間隔が整であり、F波がみられます。
これは4:1の通常型の心房粗動で、反時計回りですね。
Ⅱ、Ⅲ、aVFには陰性のF波を認めます。
V1誘導をみると、F波が一見、P波のようにみえますね。
F波は300bpmで、4:1の伝導比率なので、HR70bpmです。
②86歳 男性 入院中の不整脈
これは4:1の通常型の心房粗動で時計回りになります。
Ⅱ、Ⅲ、aVFではF波が陽性にみえて、V1では陰性P波のようにみえます。
③ 症例 72歳 男性 動悸
さて、この心電図はどうでしょうか?
QRSの幅の狭いRR間隔の整である頻脈です。HRは150bpmくらいです。
これだけだと、他の上室性頻脈と鑑別が出来ません。
このため、この症例では鑑別のため、アデノシン10㎎を経静脈投与しています。そうすうと、房室ブロックが起きて、隠れていたF波が明らかになりました。
この症例は非通常例の心房粗動でした。
さて、今回の講義はいかがだったでしょうか?
ボリュームが多くなってしまいましたが、重要なトピックなので何回か読んでもらって理解するようにしてみてください。
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