インフルエンザの治療:イナビル編

インフルエンザ
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前回はタミフル(Oseltamivir)の治療に関するエビデンスを講義してまいりました。

インフルエンザの治療:タミフル編
前回までインフルエンザの診断はどうするか講義をしてきました。今回の講義ではインフルエンザの治療について述べていきたいと思います。ということで、インフルエンザの治療薬でもっとも有名なタミフルが、どんな効果があるのか勉...

今回はイナビル(Laninamivir)にどんなエビデンスがあるか調べていきたいと思います。
イナビルって、アメリカでは承認されていない薬剤だって知っていました?
一時期、イナビルを僕も処方しまくっていたので反省を込めて、今回の講義をしたいと思います。

症例1 28歳 女性 発熱 咳嗽

あなたが当直する救急外来に夕方からの急な発熱を主訴に28歳の女性が来院されました。職場内にインフルエンザに罹患した人がおり、接触があったとのことで症状からインフルエンザと診断しました。
タミフルをあなたは処方しようとすると、、、

症例1
症例1

外来をやっていると「一回で良くなる薬をください」って患者さんから言われることは多くないですか?患者さんからするとのみ忘れなくて済むし、効果が同じならイナビルがいいですよね。
実際、一時期、ほとんどの処方がイナビルでした。去年はゾフルーザが多かったと思います(少なくとも福井大学の救急部では処方する人はいなかったと思いますが)。
イナビルは効果のある薬なのでしょうか?
それでは論文を読んでいきましょう。

イナビルってインフルエンザに対する治療効果あるの?

論文
論文

Clinical Infectious Diseaseから2010年に発表された論文で、2008年から2009年にかけて日本、台湾、韓国、香港の117施設でイナビル(Laninamivir)とタミフル(Oseltamivir)の非劣勢試験を行いました。非劣勢と聞くとなんだそりゃっとなりそうですが、要するにイナビルはタミフルと同じ効果がありますよというRCTです。何でそんなめんどくさいことをやるというと、治験に参加するか選べる国において、一方は「治療薬」、片方は「ただの乳糖」というRCTに参加しますか?と患者さんに聞いても、「いや、普通に治療してもらえれば良いです。」ってなりますよね。
なので、「治療薬」VS「プラセボ」っていう治験を行うは非常に難しいです。
対象は20歳以上で症状でてから36時間以内で体温が37.5℃以上の迅速検査でインフルエンザ陽性と出た患者です。まぁ、一般的な外来での診療と同じなので、すぐに臨床に使えそうな研究ですね。

方法
方法

患者群は20㎎のイナビル、40㎎のイナビル、150㎎のタミフル群に分けられました。医者も患者も研究補助員も誰がどの群なのか知りません。とてもよくできたデザインですね。
アウトカムは治療開始から症状が軽快したまでの期間としました。
非劣勢についてですが、イナビルがタミフルより症状軽快が18時間以上長くなかったら非劣勢としました。「なぜ18時間か」ですが、タミフルとプラセボを比較したメタアナリシスにおいて症状軽快までの期間の違いが95%信頼区間が、19時間ー47時間であったので、イナビルとタミフルの症状軽快までの時間がその95%信頼区間より短かったら(95%の人が含まれる時間差より差がなかったら)、プラセボと比較しても効果がありそうですよね。

結果

結果
結果

研究には996人の患者が含まれ、3つの群に分かれました。解熱までの期間はイナビルでもタミフルでも変わらなさそうですね。症状軽快までの時間では、中央値で40㎎イナビル群で73時間20㎎イナビル群で86時間タミフル群で74時間でした。
イナビル群とタミフル群での症状軽快までの期間の差は、40㎎群でー0.6時間、20㎎群で12.2時間で、どちらも先ほどに決めた18時間以内でした。
副作用である下痢も、まぁ3群で大きな違いはなさそうですね。
ということで、ちゃんとサンプルサイズも十分あるデザインもしっかりしたRCTで、インフルエンザに対しての治療効果はタミフルとイナビルで差がないことが証明されました。

なんで、この研究に問題があるの?

ここまで聞くと、すごいちゃんとした研究で証明されたのだから、イナビルも効果ありって思ってしまいますよね。ここで、どんでん返しがあります。

考察
考察

実はインフルエンザウイルスに問題があったのでした。研究が行われた時期に流行したインフルエンザはソ連型A/H1N1型インフルエンザ(今は絶滅)でタミフルに耐性があります。このウイルスがRCTの患者の60%ほどに含まれていました
つまり、研究デザインのしっかりした研究で統計学的に正しい手法で、イナビルが「タミフル耐性インフルエンザに対するタミフルの効果」と同様なことを証明してしまったのです。こりゃだめだ。
筆者は「イナビル内服群はインフルエンザの症状軽快までの期間が短いので効果あり」と言い訳していますが、そもそもA/H1N1インフルエンザは軽症のことが多いです。

と、ここまでくると、イナビルが”インフルエンザに効果があり”という根拠が乏しいことが分かると思います。でも、日本では抗インフルエンザ治療薬として採用されました。
意味が分かりません
このイナビルは第一三共が開発した日本発の抗インフルエンザ薬だったのですね。

イナビルその後

その後、第一三共はイナビルをビオタ社というベンチャー企業に使用を許可し、IGLOO tirialとして欧米12か国でイナビルとプラセボを比較した治験を行いました。

治験
治験

その結果、インフルエンザの症状緩和までの期間をプラセボと比較しましたが、有意差は出ませんでした
まぁ、想像通りですよね。

Biota Reports Top-Line Data From Its Phase 2 "IGLOO" Trial of Laninamivir Octanoate
ATLANTA, Aug. 1, 2014 (GLOBE NEWSWIRE) -- Biota Pharmaceuticals, Inc.

おかげで、担当していたベンチャー企業の株は大暴落です。
ということで、イナビルは欧米では採用されていない、日本固有の薬になってしまいました。あらら。

イナビルから見えてくる反省点

今回のイナビルの研究から、いくつか学べる事があります。
①日本の中央薬事審議会は治療効果が分からない新薬も承認する。
 現場の人間がちゃんと研究を分かってないと騙される。
②一度、承認された薬剤の治療効果が欧米で否定されても、日本では見直しはない
ということでしょうか。

他の分野でそういった事はないのですが、インフルエンザについて調べていると、日本の良くない部分が見えてきます

ここで、僕の立ち位置をはっきりさせておきたいと思います。

御社からもし謝礼をいただいても僕のプラクティスが変わることはないと思いますが、
講演会等の需要があるようでしたら、ぜひお願いしますwww

ということで、今回の勉強会はいかがであったでしょうか?
次回も楽しみにしておいてください。

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