インフルエンザの治療:ゾフルーザ編

インフルエンザ
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今回は治療編の最後です。タミフル、イナビルに続いて新薬ゾフルーザです。

インフルエンザの治療:タミフル編
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インフルエンザの治療:イナビル編
前回はタミフル(Oseltamivir)の治療に関するエビデンスを講義してまいりました。今回はイナビル(Laninamivir)にどんなエビデンスがあるか調べていきたいと思います。イナビルって、アメリカでは承認されていない...

イナビルと同じように1回の内服で効果があるということが最大のポイントです。2019年の初めには「ゾフルーザ」と検索すると、「新薬、最高!」、「特に飲み忘れの多い高齢者向け!」と書いてある、いろいろなブログがヒットしました。今はGoogleで検索しても、全然引っかからないですね。
ちなみに今はGoogleのアルゴリズムが変わって、ニセ医学を載せているサイトは検索に引っかからないようになっています。
そして、Amazonもニセ医学を扱った書籍を排除し始めたそうです。
国の規制がしずらい領域を、こういった形で規制してくれるなんて、本当にありがたいですね。
あれ、このサイトも検索に引っかからないなぁ。

28歳女性 発熱 咳嗽

28歳女性が夕方からの発熱、咳嗽で受診されました。迅速検査でインフルエンザ陽性です。イナビルを希望されていましたが、効果がないことを伝えると、「CMでやってたインフルエンザの新薬」を希望されています。カンブリア宮殿も見たと言っています。これは困りました。

症例1
症例1

カンブリア宮殿、これは強力です。

2019年1月24日 放送 塩野義製薬 社長 手代木 功 (てしろぎ いさお)氏 |カンブリア宮殿: テレビ東京
2019年01月24放送 塩野義製薬 社長 手代木 功(てしろぎ いさお)氏 :インフルエンザ流行の季節。インフルエンザ新薬を開発した塩野義製薬は、業界大手が注力しなかった感染症分野に力を注ぎ、「鳴かず飛ばず」といわれた企業を手代木社長が劇的に復活させた。いつしか、「手代木マジッ

うーん、なんだか凄い薬みたいですね。
ということで、まずゾフルーザが効果があったと報告した論文をあたってみましょう。

ゾフルーザってインフルエンザに効果あるの?

ゾフルーザ
ゾフルーザ

ゾフルーザ(Baloxavir Marboxil)は効果があるのでしょうか?2018年9月のNEJMで発表された論文を紹介したいと思います。NEJMに載ってから、日本で流通するまでが本当に短い?それ以上まえから流通?よくわかりません。
この研究は20歳から64歳の健康なインフルエンザの成人を対象に行われました。入院になった人やハイリスク患者群は除外されています。2つのRCTが行われており、まずPhase2として日本でプラセボVSゾフルーザ(10,20 or 40mg)で比較したもの。次にPhase3としてアメリカと日本でプラセボVSタミフルVSゾフルーザで行いました。Phase3でインフルエンザの迅速検査をしないのはアメリカでは基本行わないからなんですね。

結果
結果

では、結果です。主にPhase3の結果について話します。ゾフルーザ群はプラセボ群と比較して有意差をもって症状緩和までの時間が短かったです。タミフル群と比較してもよさそうですね。
ウイルス検出期間は、ゾフルーザ群では24時間、プラセボ群は96時間、タミフル群72時間とゾフルーザ群で有意差をもって短かったです。
ここまででは、ゾフルーザはタミフルと比較して、効果は同じくらいだが、ウイルス検出までの期間を短縮することができると言えそうですね。

結果
結果

ゾフルーザ投与群のウイルス変異について

ここからが問題点です。ゾフルーザ群では約10%に投与後5日目から遺伝子変異したインフルエンザウイルスが検出され始め、ウイルス変異株では症状緩解まで63時間かかることが分かりました。つまり、耐性が出たということです。

添付より
添付文章より

この変異したウイルスについて論文では、これ以上のデータは載ってなかったのですが、ゾフルーザの添付文章には上記のグラフが載っています。
これを見ると、ゾフルーザ投与により変異したウイルスは3日目からウイルス検出量が増加しています。そして、5日目からプラセボ群から検出されるウイルス力価を越えてしまいます。つまり、ゾフルーザによってインフルエンザウイルスが変異した場合、薬を飲んでいない人と比較して、5日目から6日目でインフルエンザウイルスを排出する量が多いということです。そして、これが投与された人の10%に起こります
これって、薬を飲んだほうが、逆にインフルエンザを蔓延させる可能性がある場合があるということなんでしょうか?

ゾフルーザのまとめ

まとめ
まとめ

ゾフルーザをまとめると、タミフルと同様に症状緩解までの期間が短くなります。主な副作用の頻度を先の論文から項目ごとに抜き出すと、あまり変わらなさそうです。
ゾフルーザがインフルエンザに対して効果があるというのは真実なようです。

ゾフルーザの問題点

ゾフルーザの問題点はデータが足りないことと、ウイルスの耐性化です。

小児に対して

まず、ゾフルーザは11歳以下の小児のRCTがありません。シングルアームの研究はありますが、社内資料とのことで評価できません。
なので、原則、小児には投与しないほうが良いです。

インフル薬ゾフルーザ「12歳未満は慎重に」 学会提言:朝日新聞デジタル
 抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」の耐性ウイルスが相次いで出現した問題で、日本感染症学会はゾフルーザを12歳未満に投与するのは慎重に検討すべきだとする提言をまとめた。12歳以上と成人についてはデータが…

ただ、今、1歳から12歳を対象にした研究の結果が発表されたようで論文化が待たれます。結果はほとんど同じで、小児でもタミフルと同様の症状緩解までの期間の短縮とウイルスの排出量がタミフルより早いという事でした。

Roche announces positive results for first global phase III study investigating one-dose Xofluza (baloxavir marboxil) in children with flu

高齢者やハイリスク患者に対して

また、65歳以上の高齢者、慢性疾患を持っているハイリスク患者入院を必要とする患者のデータがありません。2019年によく言われていた「高齢者の飲み忘れ防止によい」というのは、高齢者に本当にゾフルーザが効果があるのか、副作用が強く出ないのか分からないので、正しいのか分かりません。(CAPSTONE-1 trialの段階では)

その後、65歳以上の高齢者や基礎疾患を持っている患者も対象にしたCAPSTONE-2trialが行われ、結果が発表されています。論文化がまだなので、詳細は不明ですが、結果は症状緩解までの期間はタミフルと変わらないが、ウイルス排出までの期間はタミフルより短いそうです。またインフルエンザBに関してはタミフルより症状緩解までの期間が短かったそうです。プラセボと比較して、インフルエンザの合併症頻度が低かったそうです。
アブストラクトを読んだのみなので、どの程度正しいのか分かりません。

Abstract: Phase 3 Trial of Baloxavir Marboxil in High Risk Influenza Patients (CAPSTONE-2 Study) (IDWeek 2018)

ウイルスの耐性化について

ゾフルーザ投与群では10%の患者で、インフルエンザウイルスが変異し、症状緩解までの期間が63時間になり、プラセボと比較してもウイルスの排出も多くなります
そして、変異したウイルスが人から人へ感染することも報告されています。

「ゾフルーザ」耐性変異ウイルス、ヒトからヒトへ伝播  感染研が1例確認 | 日刊薬業 - 医薬品産業の総合情報サイト
 国立感染症研究所(感染研)は14日までに、抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシル(一般名、製品名「ゾフルーザ」)耐性変異株のサーベイランス解析で、耐性変異ウイルス(PA I38T耐性変…

論文化されていないデータも併せて考えてみても、ゾフルーザがタミフルを上回る効果があるとは言えなさそうです。言えても同等でしょうか。
しかし、ゾフルーザはウイルスが耐性化する可能性があり、耐性化した場合、プラセボと比較してもウイルスの排出量が増加します。
また、ゾフルーザの薬価はタミフルより高額です。
そう考えると、ゾフルーザを処方する必要性はなさそうです。

ゾフルーザに対する医療機関の対応

2019年のインフルエンザが流行が終わりかけた時期から、だんだんとゾフルーザに対するマイナスな報道が多くみられたようですが、こうなることは初めのNEJMの論文を読めば想像が出来ました
たとえば、一連のゾフルーザに対する報道前に、ゾフルーザの採用を見送った医療機関もいくつかあります。

https://www.kameda.com/pr/infectious_disease/post_140.html

もちろん、当院(福井大学医学部附属病院)は、、、、当初よりゾフルーザ採用させていただいております。はい。

ゾフルーザから見えてくる日本の医療制度について

ゾフルーザ

ゾフルーザを今まで見てきましたが、日本国内の売り上げは絶好調です。売り上げは2018年度で 263億円に達しました。想定の2倍以上だそうです。
ゾフルーザのシェアは約40%でした。うーん、すごい。
一方、ゾフルーザのRCTに参加したアメリカでは2018年から2019年にかけて、7つの大都市のうち、インフルエンザが流行しているシーズンでも、一店舗しかゾフルーザを扱ていませんでした

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この、日米の差はどこからやってくるのでしょうか?
まず、インフルエンザの治療適応に対する考え方の違いがあると思われます。CDCガイドラインによるインフルエンザの治療適応はタミフルの回に書いてあるので参照してみてください。
また、日本の中央薬事委員会が、エビデンスが確立される前の薬剤を承認してしまっている点もあると思います。アメリカでは12歳未満は適応外になっていますが、日本では適応になっています。なぜでしょうか?

今回はゾフルーザに関するエビデンスをまとめてきました。
いかがだったでしょうか?
今回の勉強会の裏のテーマは「人が言う事に騙されない」ということです。
様々なところでゾフルーザが持ち上げられていた2018年当初から、ゾフルーザの問題点を指摘出来ていた人は、どれだけいたでしょうか?
恐らく、2019年度もゾフルーザはシェアを伸ばすと思います。
本当に正しいものは何か、それを論文から読み取ることが必要になってきているのではないでしょうか?
講義内容はYoutubeにもまとめてあるので、お時間がある方はお願いします。

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