今回はちょっとマイナーな心筋梗塞の心電図を講義したいと思います。頻度は少ないですが、一発で診断出来たら、再灌流療法までの時間が短縮できるので、皆さんも覚えておくようにしてください。
De Winter T waveって、どんな心電図変化?
症例1: 64歳男性 胸痛 手足のしびれ
あなたが当直する救急外来に64歳男性が胸痛と手足のしびれを訴えて来院されました。来院時の心電図を示します。
どうでしょうか?脈が不整でちょっとわかりにくいですね。ST低下がV2~V5でみられるため、不安定性狭心症またはNon-STEMIと診断されてしまうのでしょうか?Non-STEMIなら少なくとも急いでPCIに行く必要はなさそうです(実際の現場ではすぐにPCIに行く施設もあると思いますが、エビデンスではという意味です)。ただ、この患者さんは強い胸痛を訴えています。本当に急がなくてよいのでしょうか?
De Winter T Waveとは?
実はもうこの心電図から急性の心筋梗塞を疑わなくてはいけません。これはSTがまだ上がっていませんが、冠動脈の閉塞を示す危険な心電図です。
この心電図はDe Winter T Waveと呼ばれる所見がみられています。このDe Winter T Waveは2008年のNEJMで初めて報告されました(エディターへの手紙コーナーで短い投稿です)。De Winterさんは左前下行枝閉塞を起こした患者のうち、30人/1532人(2.0%)にST上昇しない心筋梗塞の特徴的な心電図所見を見つけました。この心電図所見は胸痛の発症から平均1.5時間で認められたそうです。つまり、早期の心電図変化だと言えます。
心電図所見の特徴は前胸部誘導で左右対称な高いT波とST低下です。前胸部誘導のST上昇は認められません。aVRが0.5㎜~1.0㎜程度上昇するといわれていますが、0.5mmのST上昇は分かりにくいですね。
このDe Winter T Waveですが、まだガイドラインで緊急にPCIするようにと言及されておりませんが、だんだんとST上昇型心筋梗塞と同様に扱ったほうが良いというエビデンスが出てきています。2009年にHeartから発表された論文によると、前壁梗塞で紹介になった患者のうち約2%にDe Winter T Waveが認めらました。De Winter T Waveが認められた患者は、通常の前壁梗塞の患者より若く、男性が多く、高コレステロール血症を伴っていることが多かったです。
また、他のSystematic reviewでは、De Winter T Wave型の心電図所見は冠動脈閉塞のPositive Predictive Valueが95~100%であったと報告があります。
心電図の経時的変化
来院時の心電図では診断がつかなかったため、救急外来で採血や心エコー等を行いながら、再度心電図をとりました。
どうでしょうか?前胸部誘導でST上昇がみられるようになりました。さらに15分後、もう一度心電図をとりました。
どうですか?前の心電図よりST上昇がはっきりしてきました。
色を付けてみました。分かりやすくなりましたね。
症例の経過
その後、緊急冠動脈造影を受けて、左前下行枝に閉塞が見つかりました(赤い部分)。
前胸部誘導でST上昇がみられた位置とおおむね一致していますね。
今回のDe Winter T Waveの講義はどうだったでしょうか?今回の症例では経過観察するとST上昇がみられましたが、必ずしもそうなるわけではないです。このため、初診時の心電図より心筋梗塞を疑えることが必要だと思います。
ということで、次回も楽しみにしておいてください。
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