みなさん、こんにちは。
福井大学の川野です。
今回の講義では心電図の軸についてやっていきましょう。
これは前回の「四肢誘導のとらえ方」が基礎になっているので、まずはそちらを読んでから、この講義を見てください。
今回は何回かリビジョンをしたのですが、やっぱり内容にしっくりくる心電図を探すのは非常に難しいですね。生理機能検査室に行ったり、教授宛にお手紙書いたり、病歴室に行ったり、、、、
今後にもっと適切な心電図が見つかったら内容を変えようと思います。
心電図の軸とは?
まず、心電図の軸とは何でしょうか?簡単にいうと「電気の流れる方向」のことです。心臓では房室結節で発生した電気信号が刺激伝導系を通って左心室に伝わり、心臓から血液が全身に送られます。図にすると、だいたい右肩から左腰部のほうに、この電気信号が流れるのですね。
この電気信号が流れる方向をみるために軸という考え方が出来ました。図のように心臓から左水平方向を0°として、時計回りに右肩を+180°とします。右肩から左肩に戻る角度はマイナスの角度で表現しています。
図の人の場合には、だいたい軸の傾きは40°くらいでしょうか?
軸の正常範囲 左軸偏位? 右軸偏位?
軸の傾きにも正常値があります。洞房結節から左腰部に向かって電気が流れるので、上の図で‐30°~+90°の範囲なら正常と捉えることが出来ます。一方、+90°~+180°の範囲だと、右軸偏位(軸が右に曲がっている)と言います。-30°~-90°は左軸偏位(軸が左に曲がっている)、-90°~+180°は極端な軸偏位(軸が逆を向いている)と呼びます。
心電図の軸が役に立つときは?
心電図の軸が役に立つ時ってどんな時でしょう?
正直なところ、心電図の読影はST変化などの波形の変化から行うことが多いので、心電図の軸の読影を中心に診断がつくのは、あまりないんじゃないかな?
もし、心臓電気生理学のエキスパートになる人以外は、あまり利用する機会がないんじゃないかなって一介の救急医レベルでは思ってしまいます。
でも、せっかくなんで役に立つ瞬間を考えてみました。
①「これは軸が、、、」っていうと、出来る人にみえる
心電図を読みながら、研修医や新人の看護師さんが「これは右軸偏位で、、、」って語りだしたら、正直、ビビります。「軸」が分かると「出来る」オーラを発揮することができるでしょう。
②「軸の変化」から疾患を想定できる
経過観察中に、軸偏位がみられた場合には、心臓の波形の変化が正常範囲内だとしても、軸の変化から疾患を疑うことが出来ます。心臓のどこの部分で異常が起こったのかなって想像することもできますよね。講義の最後に軸偏位をきたす疾患をまとめてあるので、そちらも参考にしてください。
心電図の軸の求め方
では、実際に心電図の軸を求めてみましょう。
心電図の軸、つまり心臓の電気の流れる方向を決めるためには、前回の講義内容を理解しておくことが必要です。上の図で示すように、心電図の四肢誘導はそれぞれ心臓に流れる電気信号を上のような角度で見ています。
心電図の軸を決める方法は色々あるのですが、この講義ではⅠ誘導とaVF誘導に注目して心電図の軸を求めてみましょう。図のようにⅠ誘導は心臓から左側に行く電気信号を見ています。aVFは心臓から下側に向かう電気信号を見ています。
では、実際に上の心電図の軸を求めてみましょう。心電図の画像が小さいときは適宜拡大するなど調整をしてみてください。
心電図の軸を求めるため、Ⅰ誘導とaVF誘導を拡大してみました。前回の講義で、基線より上にある波形は、「見ている側に向かってくる電気」、基線より下にある波形は「見ている側から離れてくる電気」と勉強しました。
つまり、Ⅰ誘導においては、基線より上の波形は「心臓から左肩に向かう電気」、aVF誘導では基線より上の波形は「心臓から下に向かう電気」を示しています。
次にⅠ誘導とaVF誘導で基線より上の波形の高さが何mmか、基線より下の波形が何mmか計測してみましょう。
それぞれの誘導で、(基線より上の波形の高さ)ー(基線より下の波形の深さ)を計算してみてください。こうすることで、おおまかな、Ⅰ誘導、aVF誘導での電気の進む方向が分かります。例えば、上のスライドのⅠ誘導ではR波が基線より一番高い波形で、S波が一番深い波形です。そのため、8㎜-3㎜=5㎜となります。
Ⅰ誘導、aVF誘導で計算した値を、上の図に当てはめてみましょう。そうすると、Ⅰ誘導では+5㎜、aVF誘導では-5㎜なので、図のような方向(青い矢印)に電気が進んでいることが分かります。この青い矢印が心電図の軸です。軸の角度は、Ⅰ誘導とaVF誘導が作る三角形が直角二等辺三角形なので、-45°になります。
この症例は左軸偏位があるのですね。
この心電図は完全右脚ブロック+左脚前枝ブロックの症例です。左脚前枝ブロックは左軸偏位を起こす病態なので覚えておきましょう。
練習問題①
さて、練習問題をやってみましょう。
上の心電図の軸を求めてください。
説明した通り、Ⅰ誘導とaVF誘導に注目するのでしたね。Ⅰ誘導で(基線より上の波形の高さ)ー(基線より下の波形の深さ)を計算してみると、+8㎜でした。aVF誘導で同じ計算をしてみると、0㎜でした。
これを図にあてはめて考えてみましょう。そうするとⅠ誘導が8mm、aVF誘導が0㎜なので、左方向に0°の向きになります。
軸の方向は、‐30°~+90°の範囲に収まるので正常範囲ということになります。
こちらは正常な心電図です。
練習問題②
もう一つ練習問題をやってみましょう。
上の心電図の軸を求めてください。
今までの繰り返しになります。Ⅰ誘導で(基線より上の波形の高さ)ー(基線より下の波形の深さ)を計算してみると、-2㎜。aVF誘導で同様の計算すると、+10㎜でした。
これも同じように上記の図にあてはめてみると、Ⅰ誘導が‐2㎜で、aVF誘導が+10㎜なので、だいたい+110°くらいでしょうか?
そうすると右軸偏位にあたります。
この方は特記すべき異常がなく、やせ型だったから右軸偏位になったのかなと思います。
軸偏位をきたす病態
最後に軸偏位をきたす疾患をまとめていきましょう。覚えるべき疾患は急な右室負荷(肺塞栓など)で右軸偏位を起こすということです。以前の心電図で正常軸であったのに、急に右軸偏位になっていたという症例では、肺塞栓を念頭に急激な右室負荷がかかっている疾患に罹患している可能性があると想定する必要があると思います。
その他では、TCA(三環系抗うつ薬)中毒や高カリウム血症でも右軸偏位を起こします。
一方、左軸偏位をきたす疾患は上記になります。正常軸だった人が急に左軸偏位になった時に考える疾患としては、新規の左脚ブロックか下壁梗塞でしょうか。
新規の左脚ブロックは心筋梗塞も鑑別に上がります。
極端な軸偏位をきたす疾患は上記になります。
ということで今回の講義はどうだったでしょうか?
あんまり心電図の軸って使うことはないんですけど、心電図を勉強する上で避けられない項目なので今回扱ってみました。
では、次回の講義も楽しみにしておいてください。
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