みなさん、こんにちは!
福井大学の川野です。
「おい、メジャーな心電図やるって言ったろ?」って気がついちゃった人、ごめんなさい。色々調べていたら、面白くなっちゃって、マイナー心電図で引っかかってしまいました。
「そもそも、心電図の電極のつけ間違いなんてあんまりないでしょう。」って僕も思っていましたが、つい先日、経験しましたw。
いつも心電図は救急外来で看護師さんにお願いしているのですが、慣れていない人だったので位置を間違えてしまったようです。
でも、それをすぐ僕が見抜ければよかったのですが、気が付かず、いろいろ面倒な検査までしてしまいました。いやー勉強が足りなかった。
と、そんな自戒の思いを込めた、今回のテーマに入っていきましょう。
症例 46歳男性 入院時の心電図で異常を指摘
あなたが病棟勤務をしていると、来週の入院患者さんが入院時の検査を終えて病棟にやってきました。心疾患の既往はなく、今回は心臓とは関係のない手術目的で入院してきました。入院時の心電図を示します。
特に今は患者さんに症状はないのですが、以前の心電図と一応比較してみました。
これが前回、救急外来受診時にとられた心電図です。
よく見ると、いろいろな誘導で今回の心電図とは波形が異なっていそうです。
いったい、どこの誘導で波形が異なっているでしょうか?
上の心電図と比較しながら考えてみてね。
ぱっと、眺めてみましょう。
そうすると明らかにⅠ誘導は変化していそうです。
一方、胸部誘導は変わってなさそうです。
そこで、Ⅰ誘導を拡大してみましょう。
Ⅰ誘導を拡大し、前回の心電図と並べてみました。今回の心電図で一番違和感を感じるのがⅠ誘導でP波が陰性という点ですよね。つまり、P波は心臓から右方向へ進んでいることになります。通常は洞房結節から刺激伝導系を通って左心室へ電気信号が伝わるので、右側から左側に電気が流れます。そうすると、この人の体では通常と逆方向に電気信号が流れています(このあたりの話は前の講義を診てもらうと分かりやすいと思います)。
その他にも異常Q波、陰性T波がみられます。
うーん、おかしい。
前回の心電図と比較してみると、なんだか上下がさかさまになっているように見えませんか?
他の誘導も並べて比較してみましょう。
今度は今回の心電図と前回の心電図の四肢誘導だけを並べてみました。そうすると、様々な誘導で入れ替わってる事が分かります。
Ⅰ誘導では上下がさかさまになっています。
Ⅱ誘導とⅢ誘導、aVL誘導とaVR誘導がそれぞれ入れ替わっていそうです。
aVF誘導に関しては変化がなさそうです。
四肢誘導(左右)の電極のつけ間違いの特徴
実はこれは手に付ける誘導(赤と黄色の電極)を間違えた時に記録される心電図でした。特徴で最も大切なのは、Ⅰ誘導のP波が陰性化することです。Ⅰ誘導のP波が陰性化することは滅多に起こらず、鑑別としては右胸心と左房調律くらいです。後日、これらの心電図は解説しますね。
その他の所見としては、aVRが陽性化します。ここも前回の心電図の電気の流れの講義でやったと思いますが、通常は右側から左側に心臓内で電気信号が流れるため、通常はaVRは陰性です。
また、胸部誘導は変化しないところも覚えておきましょう。
実際の臨床では、この心電図はあまり見かけません。というか、赤と黄色の電極を間違えることはあまりないんでしょう。
でも、次の間違いはたまに起こり、その上、すごく悩んでしまう。そんな、厄介なものです。
症例 46歳男性 心電図の撮り直し
さて、どうやら心電図がうまく撮れていなかったようなので、もう一度、オーダーしてみました。、、、ですが、今回もなんだかおかしそうです。
いったいどこがおかしいのでしょうか?
こちらが、前回の心電図になります。
それでは今回の心電図と比較して、どこがおかしいのか見つけてみてください。
今回の心電図では四肢誘導は変化なさそうです。
でも、胸部誘導のV1~V3あたりは何だか波形が変になっています。
それでは、前回の心電図と比較しながら読み解いていきましょう。
前回のと比較すると、QRS間隔は特に変化ないのですが、今回の心電図ではV1~V2あたりでは不完全右脚ブロックのようにみえます。
不完全右脚ブロックが突然起こる疾患というと、有名なのが肺塞栓です。肺塞栓の心電図に特徴的なSI QIII TIII パターンと呼ばれるものがあります。この新規の不完全右脚ブロックも肺塞栓を疑う心電図所見の一つで、18%程度の肺塞栓の患者で見つかります。
もし、この人が胸痛を訴えていたら、肺塞栓もまじめに考えなくてはいけないですね。
でも、V3を見てみると、サドルバック型のST上昇のようにもみえます。
サドルバック型ST上昇というと、ブルガダ症候群の可能性もあるのでしょうか?
V1V2のつけ間違い
実はこの心電図はV1,V2(今回はV3も)のつけ間違いでした。
100年前に心電図が発明されてから、人類は何度もV1V2の位置を間違えてきたそうです。すごく歴史ある間違い方なんですね。
V1V2の位置間違いでは、上記の不完全右脚ブロックにみえたり、異常Q波や陰性T波にみえたり、サドルバック型ST上昇のようにみたりします。
なので、心筋梗塞を疑っている患者の心電図で、この間違いをしてしまうと非常に困ってしまいます。
自分が最近経験した心電図の位置間違えも、このタイプでした。
なぜか、V1V2の位置を第2肋間にしてしまうことが多いそうです。
この患者さんのV1V2を正しい位置、一つ上の肋間(第3肋間)、もう一つ上の肋間(第2肋間)で心電図をとってみたので比較してみてください。
上に行くほど不完全右脚ブロックぽっくみえて、その下だとサドルバック型ST上昇っぽくみえますね。
練習問題
さて、ここで練習問題にいってみましょう。
まずは正常な位置でとった心電図を覚えてください。
以下の心電図は、さっきの四肢誘導の間違いか、V1V2の位置の間違えか、どちらでしょうか?
練習問題①
さて、どうでしょうか?
この心電図では、V1で異常Q波のように見えるのと、P波が陰転化しています。
通常はV1ではP波は陽性ですよね。
答えは、V1V2の位置のつけ間違いでした。
この、V1V2の位置のつけ間違いは人により様々なパターンがでるのが面白いですね。
練習問題②
さて、こちらの心電図はどうでしょうか?
Ⅰ誘導でP波が陰性化し、R波が陽性化していますね。
これは、上肢の左右の誘導のつけ間違いでした。
ということで、今回の講義はどうだったでしょうか?
あれ?有名な心電図やるって言わなかった?って疑問に思った人、その通り!
やります。
でも、性格上は、細かいところが気になっちゃうんですよね。
次は、メジャーなところに行くとフェイントかけてからの~、え?その心電図?というようなテーマで行こうとおもいます。
では、次の講義も楽しみにしておいてください。
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