分かる!完全房室ブロックの心電図

心電図基礎講座
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みなさん、お久しぶりです。お元気でしたでしょうか?
実は久々の更新で、頭の中には出来上がっていたのですが、なかなか時間を取って講義を作る時間がありませんでした。
本当は、「完全房室ブロックに行くと見せかけて、、、」とマニアックな心電図解説を使用かなと思ったのですが、「はよ、完全房室ブロック!」という感じのコメントをYoutubeで頂いたので(ありがとうございます)、完全房室ブロックの講義をすることとしました。

この講義というか、このサイトも脱線しまくりで、いつしか心電図の教科書を作ることを目標としていたり。よく分からないことをしていますが、「とりあえず、心電図をすべて解説する」ことを目標にしていますので、ぜひ、そちらが達成できるまで、皆さんもお付き合いお願いします。
ということで、始めましょう。

症例1 94歳 男性 息切れ

あなたが内科病棟で働いていると、新たな患者さんが入院してきました。慢性心不全、慢性腎不全で他院で入院されていましたが、心不全、腎不全がコントロールされてきたので、ペースメーカー植え込み術目的に当院に転院してきました。
今はふらつきや労作時の息切れがあるのみで、症状は落ち着いています。
以下に心電図を示します。

さて、どんな所見がみられるでしょうか?心電図を拡大したりして、よく見てください。

いつも通り、Ⅱ誘導でP波とQRS波との関係をみてみましょう。そうすると、何かおかしいことに気が付くと思います。まず、赤い▼のP波はだいたい60bpmくらいで一定にあるのですが、黄色の▼のQRS波が非常に遅く45bpmくらいしかありません。QRS波の幅は狭いです。
Ⅱ度房室ブロックではP波とQRS波がつながっている部分が一部でもありましたが、今回は全くP波とQRS波がバラバラになっています。
さて、これは何の心電図でしょうか?

この心電図は完全房室ブロックの心電図でした。
では、完全房室ブロックの心電図上の特徴とは、どんなものがあるのでしょうか?

完全房室ブロックの心電図の特徴

今までⅠ度房室ブロックやⅡ度房室ブロックの心電図を解説してきました。今までの房室ブロックはどこかでP波とQRS波がつながっていましたが、今回の完全房室ブロックでは、P波とQRS波が、つながっている部分はありません。完全に房室結節とそれ以下の刺激伝導系のつながりが切れているものが、「完全房室ブロック」と呼ばれます。
特徴は、P波とQRS波がそれぞれ一定のリズムであり、P波は必ずQRS波より早いリズムです。

では、なぜ、P波は必ずQRS波より早いリズムなのでしょうか?
ここにきて、前回の房室接合部調律の講義の内容が生きてきます。

完全房室ブロックでP波のリズムがQRS波より早い理由

では、前回の講義の復習からですが、心臓には様々な場所にペースメーカー細胞が存在しています。それぞれの部位ごとにペースメーカー細胞が発生させる電気信号の頻度は決まっていて、洞房結節からの電気信号が最も早く60~100bpm、心室からの電気信号は20~40bpmで最も遅いです。これはペースメーカー細胞が自身の出す電気信号の頻度より高頻度の信号が入ってくると抑制されるという性質があるからなんですね。この辺りは前回の講義を復習してみてください。

完全房室ブロックが起こった場合、刺激伝導系の房室結節から心筋に至る経路のどこかで電気信号の通り道が切断されることになります。そうすると、心房には洞房結節の電気信号が伝わるため、通常のP波が確認できます(P波は心房の収縮を見ているのでしたね)。しかし、切断部以下では房室結節からの電気信号が伝わらないため、切断部に近い部分に存在するペースメーカー細胞から電気信号が代わりに発生することになります。これを補充調律と呼びます。補充調律によって生まれた電気信号は、残りの刺激伝導系を伝わり、心筋を収縮させます。

補充調律の電気信号は、心電図のどこを見たら良いでしょうか?補充調律は房室結節より先の電気信号なので、QRS波~T波の部分をみてください。この部分の波形は補充調律によって発生しています。このため、完全房室ブロックのQRS波の頻度は、そのまま補充調律の電気信号の頻度にあたります。

このような機序で補充調律がでるため、完全房室ブロックではP波は必ずQRS波より信号の頻度が早くなります。もし、P波よりQRS波のほうが、多くなっている場合には、完全房室ブロックではないので注意してください。

完全房室ブロックの病態

完全房室ブロックはⅡ度房室ブロックから移行します。Ⅱ度房室ブロックは、Wenckebach型とMobitzⅡ型がありました。この二つのタイプの房室ブロックは、同じⅡ度房室ブロックといっても、病態が異なりました。それぞれが完全房室ブロックに移行した場合には、どのように異なるのでしょうか?

では、Wenckebach型のⅡ度房室ブロックから完全房室ブロックへ移行した場合について説明してきましょう。Wenckebach型の房室ブロックは迷走神経の過刺激などによって房室結節が疲労して起こるのでした。前の講義では、「Wenckebach型房室ブロックでは高度ブロックには移行しない」と書いていましたが、下壁梗塞に伴って迷走神経が亢進し、一過性に完全房室ブロックに移行したりすることがあります。この下壁梗塞による場合でも、通常は虚血が解除されると完全房室ブロックから戻ったりします。またアトロピンにもよく反応し、一般的には予後は良好です。

一方、MobitzⅡ型のⅡ度房室ブロックから完全房室ブロックに移行した場合はどうでしょうか。MobitzⅡ型の房室ブロックは、刺激伝導系が切れそうになって起こるのでしたね。MobitzⅡ型の房室ブロックから完全房室ブロックへ移行する主な原因の一つには、前壁中隔梗塞があります。こちらは刺激伝導系が心筋が虚血~壊死を起こし、障害されたために起こります。なんだか、重症そうな気がしませんか?MobitzⅡ型房室ブロックから移行した完全房室ブロックは基本的に永続性で、ペースメーカー植え込み術などの処置が必要になります。

完全房室ブロックの原因

完全房室ブロックの原因ですが、忘れていけないものは、下壁梗塞と前壁中隔梗塞です。下壁梗塞と前壁中隔梗塞はすでに講義をしているので、気になった方は参照してください。
外来で頻度が高いものはサルコイドーシスです。

症例2 60歳 男性 失神

今回は新聞配達中に失神した患者さんが救急車で搬送されてきました。当直中のあなたは、失神の精査をするために心電図を取りました。以下に示します。

さて、どのような所見がみられているでしょうか?

いつも通りP波とQRS波の関係をみるために、Ⅱ誘導を拡大してみましょう。P波もQRS波も一定にみられており、それぞれ55bpm、33bpmくらいです。P波とQRS波の関係は見られません。
というと、完全房室ブロックの心電図ですね。
前の症例との違いは何でしょうか?実はQRS波の幅が異なります。

完全房室ブロックのQRS波の幅と臨床症状

上の二つの症例のⅡ誘導を比較してみましょう。
症例1ではQRS波の幅が3mm未満ですが、症例2では3mm以上になっています。
QRS波の脈の頻度も症例2のほうが遅いですよね。
実はもう一つ、症例1と症例2で異なっていることがあります。
この症例1と症例2、どんな違いから起こっているのでしょうか?

実はQRS波の幅の違いをみれば、症例1で説明した補充調律がどこから出ているのか分かることが出来ます。
症例1のようにQRS波の幅が狭い完全房室ブロックでは、房室結節内かHis束でブロックされています。このため、補充調律は房室結節下部かヒス束から出ているため、比較的心拍数が保たれています。一方、症例2のようにQRS波の幅が広い完全房室ブロックでは、障害部位がさらに末梢にあり、補充調律は心室から出ています。この場合には、QRS波の幅は広くなります。心室のペースメーカー細胞から補充調律が出ているので、心拍数は20~40bpmと高度な徐脈になります。

QRS波の幅が狭い補充調律は心拍数が比較的保たれる一方、QRSの幅が広い補充調律は心室からでているため、高度な徐脈をきたします。では、臨床症状はどのような違いがあるのでしょうか?まず、症例1と症例2を思い出してください。症例1は、完全房室ブロックでしたが、QRSの幅が狭かったため、心不全の治療を終えてから、ペースメーカー移植術を受けるために転院してきました。比較的、脈が保たれていたため、症状もふらつきのみでした。このように、QRS波の幅が狭い完全房室ブロックでは症状が比較的落ち着いていて、ふらつき、疲労感、運動制限などである場合が多く、緊急でペーシングする必要はありませんでした(体外式ペースメーカーなどで脈を保つ処置)。しかし、症例2はQRS波の幅が広く高度徐脈を伴った完全房室ブロックであったため、患者さんは失神をして救急車で搬送されてきました。このようにQRS波の幅が広い完全房室ブロックでは、高度徐脈をきたすため、失神、意識障害、呼吸困難、突然死などを起こすため重症であり、緊急でペーシングを行う必要があります。

症例3 77歳 男性 失神

あなたが救急外来で当直をしていると、77歳の男性がテレビをソファーに座って視聴中に失神したとのことで救急車で搬送されてきました。以下に心電図を示します。

さて、心電図にはどんな所見がみられているのでしょうか?
結構、いろいろな所見がみられていますが、今回は房室ブロックに注目してみてください。

いつも通り、Ⅱ誘導でP波とQRS波の関係をみていきましょう。QRS波は確認できますが、どんなによく見てもP波を見つけることはできません。その代わり基線に揺れを認めています。QRS波は一定で、幅が広く、HRは35bpmくらいです。というと、補充調律は心室から出ているのですね。
基線に揺れを認めているため、心房細動でしょうか?V1誘導を見てみましょう。

こちらはV1誘導になります。この誘導が一番よくf波を確認できるのでしたね。たしかに、f波を認めますが、少しおかしいですね。
通常は心房細動ではRR間隔が不整になるはずですが、この心電図ではRR間隔が整です。
では、いったい、何の心電図なのでしょうか?

こちらの心電図は心房細動と完全房室ブロックが合併した場合の心電図でした。その他の所見として、左脚後枝ブロック、完全右脚ブロックを伴っています。

完全房室ブロック+心房細動の心電図の特徴

f波による基線の揺れを認めますが、RR間隔が整の不整脈を見つけた場合には、心房細動と完全房室ブロックが合併していることを疑ってみてください。通常は心房細動ではRR間隔が不整になりますね。
最近はあまり見ませんが、ジギタリス中毒を起こした時に、この心房細動+完全房室ブロックの心電図になります。
ジギタリスが原因である場合にはジギタリスの中止で心電図は元に戻ります。

さて、完全房室ブロックの心電図の講義でしたが、いかがだったでしょうか?
完全房室ブロックの特徴だけ覚えるより、周辺の様々な知識も一緒に覚えたほうが楽しく学べるかなと個人的には思っております。
それでは、次回の講義もお楽しみに!

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