さて、今回も心電図の講義をやっていきましょう。
今回は左脚前枝ブロックの心電図です。
前枝って何?って人も分かるように、何でこんな心電図所見を示すのか少しずつ説明していきますね。
症例 77歳男性 泌尿器科入院
あなたが病棟で入院患者さんの定期処方などの入力をしていると、指導医が心電図をもってやってきました。この患者さんは特に症状がなく、泌尿器科に入院するときに心電図をとったそうです。以下に心電図を示します。
ぱっとみて、大きな異常はなさそうですが、ところどころ高いR波や深いS波が目立っています。さて、この心電図は診断名は何でしょうか?
この心電図は左脚前枝ブロックの心電図でした。
前回の講義で出てきた、左脚ブロックとは全然違いますね。
そもそも、左脚前枝とは何でしょうか?
まずは左脚前枝ブロックの心電図の特徴的な所見からまとめていきましょう。
左脚前枝ブロックの心電図上の特徴的な所見
左脚前枝ブロックの心電図での特徴は、Ⅰ,aVL誘導でqRパターンを示すこと(小さなQ波と高いR波)とⅡ、Ⅲ、aVFでrSパターンを示すことです(小さなr波と深いS波)。その結果、左軸偏位を示します。また、aVLのR波のピークが45msより延長するので(40msが1mmなので、1㎜とちょっと)、QRS間隔がやや延長します。
うーん、所見だけを書くと分かりにくいですね。
こんな時は「何で、こんな心電図になるのか」考えていきましょう。
左脚前枝と後枝とは?
以前の講義で刺激伝導系は洞房結節→房室結節→ヒス束→左脚・右脚→プルキンエ線維→心筋と電気信号を伝える経路であると説明してきましたが、その左脚の部分が細かく言うと、左脚→前枝・後枝に分かれていきます。
左脚前枝は後枝に比べて細長く、大動脈弁近くを走行し左室前壁を左へ進みます。一方、左脚後枝は心室中隔から後乳頭筋に向かい、さらに左心室心内膜下に広がります。左脚前枝と後枝は先端がプルキンエ線維でお互いが交通しています。
左脚前枝は左前下行枝によって血流を得ている一方、後枝は右冠動脈と左回旋枝動脈によって血流を得ています。
ここまでみてくると、細長くて、血液を一本の動脈によって得ている左脚前枝のほうが障害を受けやすいことが分かります。
左脚前枝ブロックの心電図は、どうしてこんな心電図?
さて、左脚前枝ブロックでは何故、こんな所見を示すのでしょうか。
心臓内の電気の伝わり方をみながら解説していきましょう。
①電気信号が左脚後枝を通って、下壁中隔へ
電気信号が洞房結節→房室結節→ヒス束までやってきました。ヒス束で左脚と右脚に分かれます。左脚に入った電気信号は、その後、左脚前枝と左脚後枝に分かれますが、左脚前枝ブロックでは左脚前枝は障害されているため、左心室の前壁には伝わりません。一方、電気信号は左脚後枝を通って、心室中隔から後乳頭筋に向かい、さらに左心室心内膜下に伝わります。
②心内膜から心外膜へ電気信号が伝わる
左脚後枝を通ってきた電気信号が左心室心内膜下に伝わり、それが心内膜から心外膜へ電気信号が伝わり、心筋が興奮(脱分極)します。その結果、図に示すような、下に向かう電気の流れが出来ます。
さて、この心尖部の心内膜から心外膜へ伝わっていく心筋の興奮を心電図で見てみると、どのように見えるでしょうか?まず、下から見た場合について考えてみましょう。下から見た誘導は、Ⅱ、Ⅲ、aVFでしたね。心臓の下から見ると、この心内膜から心外膜へ流れる電気は、足元に向かってくる方向に流れるので、Ⅱ、Ⅲ、aVFでは小さなR波として記録されます。
またこの電気の流れを、心臓を横からみる誘導(Ⅰ、aVL)からみてみましょう。横から見ると離れていく方向に電気信号が流れます。そのため、Ⅰ、aVL誘導では小さなQ波がみられます。
③電気信号が、プルキンエ線維を通って、左心室前壁や上部に伝わる
次に左脚後枝を流れてきた電気信号はプルキンエ線維を通って、本来、左脚前枝から電気信号を受けるはずの左心室前壁や上部に伝わります。
④電気信号が伝わったところから心筋が興奮する
プルキンエ線維を通じて電気信号が流れますが、もともとの刺激伝導系を正常に流れているのではないので流れる電気信号は少し遅れます(だいたい0.02秒くらい遅れるそうです)。そのため、電気が流れたところから、順々に心筋が興奮(脱分極)していくことになります。
では、そのプルキンエ線維を通じて順々に心筋が興奮していくのは、心電図上ではどのように観察されるでしょうか?心臓を下から見た誘導(Ⅱ、Ⅲ、aVF)で考えてみましょう。その電気信号の流れは心臓を下から見た場合には、遠ざかっていくようにみえます。
このため、Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導では深いS波として記録されます。また正常な刺激伝導系を通っているわけではないので、QRSの幅が広くなります。
一方、心臓を側面から見た誘導(Ⅰ、aVL)では、どうでしょうか?この電気信号の流れは、側方に向かっていく流れなので、Ⅰ、aVL誘導では高くて幅の広いR波として記録されます。
刺激伝導系を正常に通ったのではないので、こちらもQRS波の幅が広く、特にaVLでR波のピークで45msより遅くなります(小さな1㎜マスが40ms)。
左軸偏位の理由
まとめると、左脚前枝ブロックの時には、いったん心尖部に後枝から伝わった電気信号が左心室の前壁などに伝わるため、心臓から左肩の方向に電気信号が流れます。心臓の軸を考えてみるとⅠ誘導で高いR波、aVF誘導で深いS波になるので、左軸偏位になります。
もし軸の決め方に自信がないようでしたら、過去の記事を参照してみてください。
追加問題:左脚前枝ブロック+心房細動
例として左脚前枝ブロックと心房細動が合併した症例の心電図も上げておきます。
画面を拡大して、左脚前枝ブロックの所見がみられることを確認しておいてくださいね。
ということで、今回は左脚前枝ブロックの心電図の解説でした。
また次回の講義を楽しみにしておいてください。
コメント