分かる!右脚ブロックの心電図

心電図基礎講座
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みなさん、こんにちは。
前回からだいぶ間が空いてしまいましたが、今日も楽しく心電図の勉強をしていきましょう。
今回は右脚ブロックの心電図の解説を行います。
右脚ブロックはよく見る心電図ですが、ちゃんと覚えないと左脚ブロックと混乱しちゃいそうですね。ということで、今回も少しマニアックにやっていきましょう。

症例:67歳 男性 入院時の検査

あなたが内科病棟で働いていると、看護師さんから、ちょっと心電図を見てほしいと声をかけられました。患者さんには特に症状はないそうです。以下に心電図を示します。

心電図を眺めていると、「先生、陰性T波があるので虚血性心疾患でもあるのでしょうか?循環器の先生を呼んだほうがいいですか?」と看護師さんは心配そうです。

看護師さんが言っているのは、おそらくV1~2の陰性T波のことでしょう。
さて、この心電図にはどんな所見がみられていますか?
循環器の先生をすぐに呼んだほうがよいでしょうか?

答えは完全右脚ブロックの心電図でした。
さて、完全右脚ブロックの心電図の特徴的な所見は何でしょうか?
それと、看護師さんの言う通り、すぐに循環器の先生を呼ばなくて大丈夫ですか?
今回はこんな変わった形の心電図がみられる理由から解説していこうと思います。

完全右脚ブロックの心電図の特徴

右脚ブロックの心電図の特徴と言ったら、まずV1~3RSR’パターンがみられることでしょう(上の図)。このRSR’はMのようにR波が二つあるので、M字型のQRS波と言われます。それ以外には、Ⅰ、aVL、V5~6の主に心臓の側壁を見ている誘導で幅の広いS波がみられます。また、QRS間隔が3㎜より広い場合は完全右脚ブロックと言います。

このV1~3でRSR’パターンがみられたら、右脚ブロックと学生時代には覚えていました。
ただ、それだと、たまに「左脚ブロックとどう違うんだっけ?」と混乱してしまうことがありました。なかなか所見だけで覚えるっていうのは、難しいですよね。
こんな時は「何でRSR’パターンになるのか?」ということを理解して、覚えていくようにしてみましょう。

右脚ブロックの時にV1~3でRSR’パターンになる理由

完全右脚ブロックは心臓の中でどんなことが起こっているのでしょうか?教科書的には「右脚ブロックでは、右脚に障害があり、心室内の伝導障害が生じ、右室の興奮が遅れてしまう状態」となっています。ちょっと、この一文だけだと意味が分かりずらいですよね。
なので、右脚ブロックで起こっていることを説明していきましょう。

①左脚は問題ないので左心室には普通に電気信号が伝わる

電気の流れを一つ一つ順を追って考えていきましょう。洞房結節~房室結節~ヒス束と電気信号が伝わってきたところから始めましょう。この後、通常はヒス束から左脚と右脚に電気信号が伝わるのですが、右脚が障害されているので左脚にしか電気信号が伝わりません。そのため、電気信号は左脚を伝わり、左心室は通常通りのタイミングで興奮し収縮します。これは、心電図上でR波として記録されます。

②右心室には心室中隔から遅れて電気信号が伝わる

右脚が障害をされているため、右心室には右脚を通じて電気信号が伝わってきません。そうすると、右心室には心室中隔から左心室から遅れて電気信号が伝わってきます

③右心室が遅れて脱分極する

心室中隔から伝わってきた電気信号によって、右心室が遅れて興奮し収縮します。上の図の矢印の方向に電気が流れるんですね。この遅れて興奮(脱分極)した右心室の電気信号はR’波として心電図に記録されます。

ということが起こっています。これで少し、RSR’波になる理由が分かったと思いますが、左脚ブロックとの違う点を理解するには、これだけだと不十分ですよね。
次は誘導と絡めて考えていきましょう。

V1~3:RSR’パターンになる理由

先ほど説明した心室中隔から右心室に遅れて流れる電気信号は、胸部誘導では上記のような赤い矢印の方向に流れる電気として検出されます。

この赤い方向に流れる電気信号が、R’波でしたね。そうすると、V1~3でこの赤い矢印方向に進む電気信号を大きなR’波として検出できそうですね。V1~3から見ると、RSR’波は、「左心室の脱分極(R波)と遅れて心室中隔から伝わってきた電気信号による右心室の脱分極(R’波)」となります。

以上のことが起こっているため、V1~3でRSR’波が記録されるのですね。

V5~6:幅が広いS波になる理由

では、一方でこの赤い矢印の電気信号を他の誘導で見ると、どんな波形にみえるでしょうか?V5~6から赤い矢印の電気信号をみた場合を考えてみましょう。赤い矢印の電気信号はV5~6から離れていく方向なので、基線より下でS波として記録されます。
同様にこの赤い矢印の電気信号は体の左側から見た場合には、離れていく方向に記録されるので、Ⅰ、aVL誘導でも同じ幅が広いS波が記録されることになります。

このように一つ一つ考えていくと、V1~3でRSRパターンがみえる理由が理解できたでしょうか?もし、左脚ブロックとの違いについて分からなくなった場合には、同じようにして右脚ブロックの機序から考えてみるようにしてみてください。

V1~2の陰性T波は異常?~Appropriate Discordanceについて~

この心電図は、右脚ブロックだなと分かったと思いますが、そもそも看護師さんが困った理由を思い出してみましょう。確かに心電図をよく見るとV1~2で陰性T波があります。これは異常な所見なのでしょうか?

Appropriate Discordanceについて

このV1~2でみられる陰性T波はAppropriate Discordance(適切な不一致)と言われています。意味は、「異常な脱分極が起こった後には、元々のQRS波と一致しない再分極をすること」なのです。ちょっと分かりずらいですね。
V1~3では異常な脱分極(R’波のこと)がみられますよね。このR’波がみられている誘導では、通常と逆の方向に再分極をするので、ST低下や陰性T波がみられます。
今回の心電図では、V3では陰性T波がみられていません。ただ、よくみるとV3でST低下がみられているのが分かるでしょうか?

このようにV1~3では右脚ブロックでは、陰性T波、またはST低下が起こります。
なので、この心電図は正常なんですね。

右脚ブロックの原因

最後に右脚ブロックの原因についてまとめたいと思います。最も多いのは基礎疾患がない人です。という、僕も右脚ブロックがあります。
それ以外では、右心室に負荷のかかる病態が原因で起こることがあり、右室肥大、肺塞栓などです。その場合には、不完全右脚ブロックになることが多いです。
また、心筋梗塞によっても起こります。
この辺りは前の講義を参照してみてください。

ということで、今回の講義はどうだったでしょうか?
次回の講義も楽しみにしておいてください。

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