分かる!Wenckebach型Ⅱ度房室ブロックの心電図

心電図基礎講座
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さて、ついにウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックの講義までやってきました。
本当に長かった。とはいっても、ここ数カ月ですが。
徐々にYoutubeの再生数は伸びつつありますが、このブログはいたって低空飛行です。
まぁ、ぼちぼちやっていきましょう。
個人的には、このまま完全房室ブロック、脚ブロック、心房粗動などのメジャーな頻脈あたりをやれば、一息つけるかなと思います。
ということで、やっていきましょう

症例 84歳 女性 入院時の検査

さて、あなたの働く病棟に新しい患者さんが入院してきました。入院時の検査で変な心電図だということで担当医のあなたに看護師さんから心電図が手渡されました。心電図を以下に示します。
この患者さんは手術前の患者さんで、特に今は症状はなさそうです。

心電図を眺めてみましょう。よく見るとP波とQRS波の塊があって、少し間隔があいている部分がありそうです。その塊はP波から始まり、最後はP波で終わっていそうです。

P波とQRS波の関係をみるために、いつも通りⅡ誘導を拡大してみましょう。
そうするとP波は一定に出ていることが分かります。一方、R波は2回?(始まりが計測されていないから分からない)までは通常通り、R波がみられますが、その後は、突然なくなっています。PR間隔に目を移してみると、PR間隔がだんだん延長してきています。
さて、この心電図は何の心電図でしょうか?

この心電図はウェンケバッハ(Wenckebach)型Ⅱ度房室ブロックでした。

ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックの心電図の特徴

ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックの特徴は、P波は通常通り一定にあるのですが、だんだんとPR間隔が延長し、QRS波が突然欠落します。通常はP波とQRS波の比率が、3:2(2回P波とQRS波がつながった後に次の3回目のP波の後のQRS波が欠落する)、4:3、5:4です。

特徴だけ見るとMorbitz Ⅱ型房室ブロックとそこまで大きな違いはなさそうですが、ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックは病態や原因、予後などを見ると全然異なっていることが分かると思います。
ということで、どうしてウェンケバッハ型房室ブロックが起こるのかみていきましょう。

ウェンケバッハ型 Ⅱ度房室ブロックで障害される部位

ウェンケバッハ型房室ブロックは房室結節が障害されることによって起こります。モービッツⅡ型房室ブロックではヒス束以下が障害されたのとは異なりますよね。原因は薬剤や迷走神経刺激などの可逆的な障害が原因です。不可逆的な障害が原因であったモービッツⅡ型房室ブロックと対比して覚えておいてください。

ウェンケバッハ型 Ⅱ度房室ブロックの考え方

では、今まで学んだことをまとめながら、ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックをどう考えていけばよいか考えていきましょう。まず、洞房結節から心房までの電気の流れには障害はありません。このため、P波は規則正しく定期的にあります。ただし、ウェンケバッハ型房室ブロックでは房室結節が障害されるため、徐々に疲労し、心房を伝わってきた電気信号を房室結節がうまく伝えられなくなっていきます。このため、PR間隔が延長していきます。

しかし、房室結節を出た後の刺激伝導路(ヒス束~左脚、右脚~プルキンエ線維)には障害がありません。このため、QRS波は正常です。

まとめますと、ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックでは、洞房結節が一時的な障害を受けており、初めは何とか洞房結節~心房を経て伝わってきま電気信号を正常に伝えますが、だんだんと疲れてきて、最後には反応できなくなってしまいます。しかし、電線が切れてしまっているのではないので、休んだ後はまた房室結節は電気信号を伝える仕事を再開します。このように「別に電線が切れたわけではないけど、房室結節が疲れていて、だんだんと働きが遅くなってブロックされてしまう。でも、休むとまた働き出す。」というようなことをイメージしていただければよいと思います。

ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックの予後

ここまでまとめてくると、ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックのイメージが、なんだかブラック企業で働く人みたいな感じがして予後が悪いんじゃないかって想像される方もいると思いますが、実は予後は非常に良いです。ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックは基本的には症状がありません。特に循環動態に影響することもありません。モービッツⅡ型の房室ブロックは「信号を伝える電線が切れかかっている」というようなイメージであったと思いますが、ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックは「房室結節が一時的に障害されている」だけの状態なので、電線が切れる(完全房室ブロックなる→ペースメーカーが必要になる)ということはありません。

ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックの原因

それでは最後にウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックの原因についてまとめていきましょう。基本的には可逆的な障害で起こります。例えば、普段から良く運動するアスリートなどではウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックがみられることがあります。また、若い人で睡眠中に心電図を取ったりすると、睡眠中は迷走神経が刺激されている状態なので、このタイプの房室ブロックがみられたりします。原因の中で下壁梗塞で起こると書いてありますが、房室結節を栄養している血管の8割は右冠動脈から出ていて、この血管が詰まって、房室結節への血流が一時的に落ちて、その結果、ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックを起こします。または下壁梗塞が起こった影響で迷走神経が活性化し(Bezold-Jarisch reflexといいます)、房室結節が障害を受けるため、ウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックが起こります。しかし、この下壁梗塞によって起こる場合でも、その障害は一時的で、数時間から数日以内に機能は回復し、特にペースメーカー等は必要ではないです。その他に薬剤でも起こります。

ということで、今回の講義はいかがだったでしょうか?
次回の講義ではウェンケバッハ型Ⅱ度房室ブロックとモービッツⅡ型Ⅱ度房室ブロックの鑑別について、もう少し詳しくやっていきたいと思います。
ということで、次の講義も楽しみにしておいてください。

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