今回は稀な後壁単独の心筋梗塞について講義します。
後壁梗塞って、どんな心電図?
症例1:76歳男性 胸背部痛
あなたが当直している救急外来に胸背部痛を訴えている76歳男性が他院から紹介されました。前医での心電図を示します。
どうでしょうか?どんな心電図変化がみられますか?この心電図はV1~3までST低下が認められるのみで、明らかなST上昇がないため、前医では不安定性狭心症疑いという診断でした。来院時の心電図をとってみることにしました。
来院時の心電図でも明らかなST上昇は認められませんでした。前胸部誘導のST低下がさらに多くの誘導で見られます。答えを言うと、実は紹介の心電図より後壁梗塞が疑われます。
後壁梗塞の心電図の特徴
後壁梗塞は通常は下壁梗塞または側壁梗塞に合併してみられ、頻度は15~21%程度です。後壁梗塞単独例は非常にまれで、3~11%にみられるそうです。
特徴的な心電図所見は前胸部誘導のST低下と高いR波です。特にV2でR波が高く、R/S比>1.0となります。上のスライドで、前医での心電図を拡大していますが、確かにV2で上記の基準を満たしていそうですね。実はこのST低下と高いR波は実はV7やV8のReciprocal changeを見ているのです。
背部誘導とは?
皆さん、背部誘導を撮ったことはあるでしょうか?多くの人はなじみがないと思います。背部誘導は高さはV6(第5肋間)と同じ高さにして、V7は後腋窩線、V8肩甲骨下角、V9は椎体左縁に貼ります。そうすることで心臓を後ろから見ることが出来ます。
背部誘導の後壁梗塞の診断基準は?
この症例に背部誘導をとっていたなら、おそらくV2を反転したような心電図がV7~9でみられたと思います。前胸部誘導でみられたST低下は背部誘導ではST上昇になり、高いR波はQ波を示します。背部誘導ではST上昇が0.5㎜以上みられた場合に陽性としてください。下壁梗塞に合併する後壁梗塞を見つける際に、背部誘導を追加すると特異度が上昇します。後壁単独の心筋梗塞に対する感度、特異度を計測した研究はありませんが、(当たり前ですよね)背部誘導は覚えておいてください。
症例の経過
その後の臨床経過です。心エコーでは心尖部がsevere hypokinesisであった以外、壁運動は保たれておりました。緊急冠動脈造影検査が行われ、左回旋枝動脈の末梢が閉塞していました。後壁梗塞は通常、右冠動脈末梢の閉塞か左回旋枝動脈の末梢の閉塞によって起こります。このため、下壁梗塞か側壁梗塞に合併することが多いです。また後壁梗塞が合併した下壁梗塞や側壁梗塞は虚血になる範囲が広いため、予後が悪いことが知られています。
今回の講義はこれでおしまいです。
Youtubeで講義を動画にしているので、こちらも時間があれば参照してみてください。
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