心筋梗塞の心電図:Hyper acute T waveについて

心筋梗塞の心電図
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今回は心筋梗塞の早期変化であるHyper acute T waveについてやっていきましょう。
論文紹介はないのですが、意外と調べてみると興味深い。
Hyper acute T waveをマスターして、ST上昇する前の心筋梗塞をみつけちゃいましょう。

症例1:61歳 男性 左肩と頸部の痛み

あなたが当直する救急外来に左肩と頸部の痛みを訴えて61歳の男性が受診されました。今までも同様のエピソードがあり、だいたい1時間すると落ち着いていたそうですが、今日は治まらないため来院されました。来院時の心電図を示します。

症例1
症例1

さて、どうでしょうか?どこかでST上昇はみられるでしょうか?
ぱっと、見た感じでは明らかな心筋梗塞ではなさそうです。
でも、心筋梗塞の早期変化があることに気が付きますか?

心筋梗塞の時の経時的変化について

経時的変化

ここで復習です。
心筋に虚血性変化が起こると上記で見られるような心電図変化が起こります。
今回、テーマとなるHyper acute T waveは、虚血が発生してから数分から数時間続きます。その後、虚血が継続しているとST上昇がみられるんですね。
重要なのは自然に再疎通した場合などで虚血が改善してしまった場合には、完全にこのコースにそって変化が起こるわけではなく、一過性にHyper acute T waveのみで元に戻ったり、ST上昇後、元の心電図に戻ったりすることがあります。
なので、経過観察しても、明らかなST上昇をみつけようとばかりしてしまうと、心筋梗塞や再梗塞を起こしそうな不安定狭心症を見逃してしまうことにつながってしまいます。
恐ろしいですね。

Hyper acute T waveとは?

Hyper acute T wave
Hyper acute T wave

Hyper acute T waveは通常、心筋虚血が起こってから数分以内に起こります。そして、J点が上昇し始めて、ST上昇がみられます。ST上昇しても、T波が上昇が残っている場合にはT波の高さと虚血による障害の程度が一致します
Hyper acute T waveは心内膜下虚血のみで心筋細胞は障害されていないこともあるため、トロポニンなどの心筋逸脱酵素は陰性のこともあります。

Hyper acute T waveの4つの形

Hyper acute T waveは大きく分けて4つの形があります。
一つずつ解説していきましょう。

Hyper acute T wave a
Hyper acute T wave a

まず、第一のパターンとしてQRSに比較して、高いT波です。基本的にはR波よりT波は高くなります。この場合にはST上昇も伴っています。

 Hyper acute T wave b
Hyper acute T wave b

第二のパターンは、ST低下とまっすぐなT波です。心筋梗塞の早期変化で最も大切な所見の一つです(理由は後で述べます)。

Hyper acute T wave c
Hyper acute T wave c

次は最も有名なST上昇+高いT波のパターン。この心電図を見れば、すぐに心筋梗塞を疑うことは出来そうですね。特徴はR波よりT波が高いことと、T波が幅が広く左右非対称であることです。

 Hyper acute T wave d
Hyper acute T wave d

最後のパターンはこちら。一見すると、何の心電図変化にみえますか?
そうです、高カリウム血症の心電図にみえますよね(でも、違いますよ)。
高く幅の広いT波が特徴です。
高カリウム血症では、T波は左右対称ですが、こちらではやや左右非対称です。

直線状のHyper acute T waveが重要な理由

直線状のT波上昇が重要な理由
直線状のT波上昇が重要な理由

直線状のHyper acute T waveが重要な理由ですが、上の図をみてもらえば分かると思います。心筋が虚血になると、通常は下に凸なT波が徐々に上に凸のT波になります。この過程でT波が直線状になっているようみえる時があります。
つまり、心筋梗塞の早期変化を探すときは、この直線状のHyper acute T waveを探せばよいのです。

症例1 心電図
症例1 心電図

ここで、症例1の心電図に戻ってみましょう。この”直線状のHyper acute T wave”のようにみえる変化がⅢ誘導でみえています。

心電図拡大
心電図拡大

Ⅱ誘導とⅢ誘導を比較してみましょう。拡大するとⅢ誘導は直線状のT波がみられている一方、Ⅱ誘導は下に凸のT波です。心筋梗塞の早期変化の可能性はありそうです。
この時点でトロポニンTは陰性でした。

50分後の心電図

そこで担当医のあなたは救急外来で経過観察することにしました。
50分後の心電図がこちらです。

心電図
心電図

初診時の心電図より変化が明らかになってきましたね。

心電図 拡大
心電図 拡大

先ほどのⅡ誘導とⅢ誘導を拡大して比較しました。来院時の心電図と比較してⅡ誘導のT波がやや直線化して、Ⅲ誘導はJ点が上昇してきました。
まとめると50分後の心電図では、Hyper acute T waveがⅡ,Ⅲ, aVFでみられるようになってきたため、この時点で”下壁梗塞疑い”として良いと思います。

その後の臨床経過

症例まとめ
症例まとめ

その後、心電図フォローしましたが、ST上昇はみられませんでした。心エコーでは下壁から後壁の基部で壁運動低下がみられましたが、経時的に計測したトロポニンTは陰性でした。
この患者は入院し、翌日、安静時シンチグラフィーで下壁梗塞が疑われました。
その後、冠動脈造影が施行され右冠動脈の閉塞がみつかり、急性下壁梗塞であると診断されました。
こうしてみると、救急外来でみられた直線状のHyper acute T waveが心筋梗塞の早期変化を示していたと考えられました。

実はもう一つの早期変化?

実はこの心電図では、もう一つの心筋梗塞を疑う早期変化がみられています。
この辺りは次回のお楽しみということで

今回の講義はいかがであったでしょうか?
Hyper acute T waveに強くなって、心筋梗塞をST上昇が起こる前から疑えるようになっちゃってください。
参考文献として症例報告の論文も載せておきますね。

ECG Diagnosis: Hyperacute T Waves - PubMed
After QT prolongation, hyperacute T waves are the earliest-described electrocardiographic sign of acute ischemia, preceding ST-segment elevation. The principle ...

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