こんにちは、福井大学の川野です。
さて、次の講義に入っていきましょう。
今回もマニアックな心電図を講義していきましょう。
53歳女性 入院時の検査
あなたが勤務している病棟に53歳女性の肺高血圧症の患者さんが心不全になり入院してきました。入院時の心電図を示します。
うーん。様々な心電図所見があるので、すぐにすべてを理解するのは難しいですね。
ただ、今回はP波の形の講義なので、まず、P波がおかしな形をしてるところを探してください。
ということで、P波がおかしなところのみ探してみると、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVF誘導と胸部誘導ではV1~2誘導でどうやら普段見ているP波よりずいぶん背が高く見えます。
これは何の疾患の心電図なのでしょうか?
答えは右房拡大でした。右室肥大も合併しています。
次のスライドで右房拡大の心電図変化についてまとめてみたので、見てみましょう。
右房拡大の心電図の特徴
右房拡大ではⅡ、Ⅲ、aVF誘導(心臓を下から見ている誘導)でP波が高くなります。また、V1V2誘導のP波も高くなります。右房拡大の心電図の定義は教科書により異なっていることがあります。上記の条件を両方とも満たす必要があると書いてある教科書もありますし、条件のどちらかでよいという教科書もあります。また、V1V2のP 波が2.0㎜以上の高さが必要と書いてあるものもあります。
その理由は最後に書くこととして、次は何でこんな心電図変化がみられるのか解説していきたいと思います。
右房拡大の心電図変化が起こる理由
前回の左房拡大の講義を読んだ人はこの部分は重複してしまうので飛ばしてください。
この講義でも何回もP波は心房の収縮を見ているといっていますが、心房には左心房と右心房がありますよね。Ⅱ誘導のP波はこの右心房由来のP波の成分と左心房由来のP波の成分が合成されて、一つのP波を作っています。だいたい、前半の1/3は右心房由来、後半の1/3は左心房由来のP波であるとされています。
右心房が容量負荷または圧負荷を受けると右房拡大が起き、その結果、脱分極が延長(心房の心筋に伝わる時間が延長するため)します。そうすると、右心房由来のP波の底辺の部分が広くなります。その結果、左心房由来のP波とP波を合成した場合には、P波が高くなります。
次にV1誘導も見てみましょう。
V1はP波にとって特殊で右心房成分由来のP波と左心房由来のP波が逆の方向に流れます。そのため、2相性(陽性部分と陰性部分に分かれること)のP波になるのですね。
以前の講義を思い出してもらえれば、V1誘導は最も右心房に近い誘導でしたね。洞房結節は右心房にあって、洞房結節からの電気信号で右心房が収縮しますが、一方、左心房にも電気信号が送られて左心房が収縮します。この左心房の収縮は右心房から見て、遠ざかるほうに電気が流れているので、V1誘導では左心房由来成分のP波は陰性になります。
右房拡大が起こると右房成分のP波が高くなります。様々な定義がありますが、この講義ではV1~V2誘導で1.5㎜以上としています。
左房拡大を起こす疾患
右房拡大は肺高血圧症によって起こります。慢性肺疾患、先天性心疾患、原発性肺高血圧症、肺血栓性塞栓症などですが、基本的には右室肥大を合併します。
もし、単独で右房拡大のみの所見の心電図が問題に出た場合には、三尖弁狭窄症と答えるのが正解だと思いますが、現代で右心房拡大所見を示すほど重症な三尖弁狭窄症の患者さんは非常に稀なのだと思います(大学で探しても全然いません)。テストや参考書の心電図が機械で作られている場合には、右房拡大単独例の心電図はあり得ますけどね。
上で書いてありますが、ⅡⅢaVF誘導でP波が、、、という心電図の特徴を示しましたが、実は感度も特異度も高くないです(あんまり使えないという事)。そのため、いろいろな定義があるのですね。そのため、右心室肥大と合併した時の診断基準もあるのですが、それはまたの機会に。
ということで今回の講義はどうだったでしょうか?
次の講義も楽しみしておいてください。
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