今回は名前のついている心筋梗塞の心電図で有名な一つを紹介します。もう一つはDe Winter T Waveですが、そちらは過去の投稿を参照してください。
症例1:84歳女性 胸背部痛が昨日あった
夕方から胸背部痛があり、痛みが和らいだものの完全には治らなかったため、救急外来受診されました。初診時の心電図を示します。どんな心電図変化がみられますか?
明らかにST上昇がみられる誘導はなさそうですね。前胸部誘導を中心にST低下がみられます。実はこの心電図はいわゆる”不安定狭心症”として経過観察、場合によっては治療を行う必要がある所見を示しています。
Wellens Syndromeとは?
Wellens Syndromeの歴史:U波の陰転化について
Wellens Syndromeと聞いて知っている人はそんなに多くないと思います。ただ、歴史は意外とある有名な心電図のパターンなんですね。主な特徴はT波の最後の部分の陰転化です。あとで細かく基準を述べるとして、このT波の最後の部分の陰転化(U波の陰転化:U wave inversion 訳があっているか分かりません 汗)は左前下行枝の狭窄を示す重要な心電図所見として古くから注目されていました。
まず、1979年にGersonさんらは負荷心電図でのU波の陰転化が前胸部誘導でみられた36人中33人(92%)で左前下行枝の近位部の75%以上の狭窄がみられたことを発表しました。その後、1980年に同じGersonさんらがこのU波の陰転化を安静時に認めた27人中24人(89%)に左前下行枝または左主幹部に狭窄を認めました。このようにU波の陰転化は労作時にも安静時にも左冠動脈または左主幹部の狭窄を示す所見として有名になりました。
Wellens Syndromeの歴史:Wellensさん登場
1982年にWellensさんたちは不安定性狭心症の診断で同じようなU波の陰転化(具体的にはそう言ってなかったですが)をきたしている症例の12人/16人が入院後2~3週間以内に前壁梗塞を起こしたと報告しました。
Wellens Syndromeの特徴
Wellens Syndromeは左前下行枝or左主幹部の狭窄を示すいわゆる不安定性狭心症の心電図です。この心電図をとられた時は症状がないこともあります。心筋逸脱酵素(トロポニンTとか)は軽度上昇または正常範囲内です。しかし、数日から数週間以内に広範囲前壁梗塞を起こすことが知られているため救急外来で帰宅させることはできません。
心電図上で最も目立つ特徴は前胸部誘導(通常はV2~3)の2相性のT波(U波の陰転化)or陰性T波です。ST上昇は1㎜未満で目立ちません。前胸部誘導にQ波はなく、R波は保たれております。
良性の陰性T波との鑑別は①QTが長い(>425ms 良性のものは<400-425ms)と②V2~4で陰性T波(良性のものはV3~5)がポイントになります。
上のスライドにありますが、Wellens Syndromeには二つのパターンがあって、Type Aは2相性のT波で症例の25%を占めます。Type Bは深い左右対称な陰性T波で全体の75%の症例で示します。
Wellens Syndromeで起こっていること
循環器内科の研修を頑張っていた人は気が付くと思いますが、PCI後の再疎通した心電図に似ていませんか?感のいい人は想像がつくのではないでしょうか?
Wellens Syndromeでは
①左前下行枝or左主幹部に閉塞し心筋梗塞になり、胸痛が起こる。
②閉塞が自然に再疎通し胸痛が改善。
③ST上昇が落ち着いてきて、T波が陰転化する。
④再疎通した部分に高度狭窄が残っており、再度閉塞し心筋梗塞になる。
ということが起こっています。
また、再疎通後の心電図ということなので、冠動脈のスパズムでも起こることがあります。でも、救急の現場では最悪なケースを想定して、高度狭窄があると考えておいたほうが良いと思います。
Wellens SyndromeにTypeAとTypeBがあると言いましたが、時間が経つとTypeAからTypeBに移行していくんですね。この変化をとらえるために、Wellens Syndromeを疑ったら、心電図を経時的にとってください。
症例の経過
この患者さんは、来院後、緊急冠動脈造影を受けました。その結果、検査時では再疎通後でしたが左前下行枝に狭窄部位を認めました。
Wellens Syndromeの講義はどうだったでしょうか?本当にマニアックな部類に入ってくる心電図所見ですが、いつも通り細かくやりすぎてしまいましたwww。少しでも興味をもって読んでもらえたら幸いです。
Youtubeで解説もしているので興味がある方はご視聴お願いします。
では、次回も楽しみにしておいてください。
コメント