側壁梗塞って、あまり頻度が高くないため、意外と苦手意識を持たれている方が多いのではないかと思います。側壁梗塞もパターンに落とし込んでしまえば難しくないので、今回も代表的な症例をみながら理解していきましょう。
側壁のみの梗塞って(高位側壁梗塞)、どんな心電図?
症例1 37歳男性 胸痛
あなたが当直中に37歳の男性が胸が痛いといって来院されました。来院時の心電図を示します。
どんな心電図変化がみられるでしょうか?よーく見てみてください。分かりにくい人は心電図を拡大してください。本当にちょっとした変化なので、見落としそうですが、ST上昇がみられる場所を赤くすると次のようになります。
ST上昇が軽度なので分かりにくいですよね。Reciprocal changeがⅢ、aVFにみられています。
高位側壁梗塞を起こした場合の心電図変化
四肢誘導を立体的にとらえてみると図の赤い部分が梗塞を起こしていて、その反対側がReciprocal changeを起こしているのが理解できると思います。これは側壁梗塞、なかでも高位側壁梗塞(Ⅰ、aVLのみの時は、こう呼びます)の症例です。
側壁梗塞の心電図の特徴は
・Ⅰ,aVL, V5~6でST上昇(Ⅰ,aVLのみの場合を高位側壁梗塞)
・Ⅲ, aVLでReciprocal change
になります。
注意点は側壁梗塞の時(特にaVL)、ST上昇は1㎜以下のことが多く、QRSが低電位の場合には1㎜以上のST上昇を伴わないことが多い。つまり、側壁梗塞の心電図はST上昇が明らかでないことが多いため、注意が必要だということです。
高位側壁梗塞を起こすのは、どの血管が詰まった時?
高位側壁梗塞を起こした場合には、責任血管は以下の3つのパターンになります。下壁梗塞の時とは違い、高位側壁梗塞で梗塞を起こした血管を心電図から予測することはできません。一つ一つ見ていきましょう。
①まずは左前下行枝の枝である第一対角枝が単独で梗塞を起こした場合です。この位置で梗塞を起こすと、周囲の前壁にも障害が起きそうですよね。障害される範囲が広くなると前壁側壁梗塞を起こします。
②次のパターンは左回旋枝の枝である鈍角枝が梗塞を起こす場合です。ここで虚血による障害の範囲が大きくなると、側壁下壁後壁梗塞(日本語訳があっているのか自信がありません)を起こします。左回旋枝閉塞による側壁梗塞のST上昇の感度は非常に低いです。
③そして、最後が左前下行枝と左回旋枝の間から出る血管”Ramus intermedius”が梗塞が起こる場合、高位側壁梗塞が起こります(赤い線の部分)。通常は左冠動脈は左前下行枝と左回旋枝に分かれます。稀に3本に分かれることがあり、第三の枝がRamus intermediusになります。頻度は10~30%と報告されており、意外と多いんですね。ちなみにRamus intermediusが梗塞を起こした場合、左前下行枝や左回旋枝にも狭窄があり、多枝病変のことが多いそうです。
Ⅲ、aVFのReciprocal changeは第一対角枝または鈍角枝の閉塞の時が最もよく観察されます。また、この第一対角枝、鈍角枝が閉塞した場合にV5~V6、aVLのST低下も同時によく観察されます。
この患者さんは緊急冠動脈造影の結果、初めの①パターンである左前下行枝の第一対角枝が閉塞していることが分かりました。V1~3の低いR波は前壁の病変の可能性を示していたのかもしれませんね。
第一対角枝より中枢で閉塞した時の側壁梗塞は?
症例2 79歳 女性 胸部絞扼感
では、次の症例です。79歳の女性が夜間の救急外来に胸部絞扼感を訴えて受診されました。受診時の心電図を示します。どんな心電図変化がみられるでしょうか?
さぁ、どうでしょう?ST上昇がみられる場所は割とすぐに見つかりそうですね。
まず、ぱっとV2~6までST上昇しているのが分かると思います。前壁梗塞の講義で前胸部誘導でST上昇する部位と心筋の障害されている部位について説明しているので参照してみてください。他の誘導はどうでしょうか?
Ⅰ、aVLでもSTが上昇しています。aVLはQRSが低電位なので、1mm以下でもST上昇といってよいです。
その後、この患者さんは緊急冠動脈造影を受けて、第一対角枝の根元の部分の左冠動脈閉塞が分かりました。前壁側壁梗塞の時は、第一対角枝より中枢で閉塞しているのかなと考えてみてください。
左回旋枝動脈閉塞した場合の側壁梗塞は?
症例3: 74歳男性 胸部絞扼感
夜間の救急外来に74歳男性が嘔吐と胸部絞扼感を訴えて来院されました。来院時の心電図を示します。
どんな心電図変化がみられますか?様々な誘導でST上昇がみられるため、一つ一つ述べていきたいと思います。
まず、Ⅱ、Ⅲ、aVFでST上昇がみられます。まず下壁梗塞が起こってそうですね。Ⅱ誘導のST上昇>Ⅲ誘導のST上昇なので、回旋枝の閉塞を疑いますよね?この辺りは下壁梗塞の回で説明したので参照してください。
そして、Ⅰ誘導と前胸部誘導のV4~V6でST上昇がみられます。これは側壁梗塞を示します。以上の所見より側壁下壁梗塞を疑います。
症例の経過
この患者さんはその後、冠動脈造影を受けて左回旋枝に広範囲の閉塞があることが分かりました。
側壁梗塞についての講義でしたが、いかがでしたでしょうか?Youtubeのほうにも講義を載せているのでお時間がある方はご覧ください。
ではまた!
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