4つのステップをマスターすれば大丈夫!
心筋梗塞+右脚ブロック=非常に予後が悪いんです
みなさん、こんにちは。お元気でしたでしょうか?
心筋梗塞と左脚ブロックの関係って、意外と様々な研究やガイドラインで言及されているので、有名なトピックの一つですが、今回は裏をかいて右脚ブロックに注目したいと思います。もちろん、左脚ブロックも、後日取り上げるので安心してください。
右脚ブロックと心筋梗塞、あまり聞いたことがないと思いますが、実臨床ではよく遭遇しますよね。なんだ、右脚ブロックかぁって思ってしまいそうですが、実は重症な心筋梗塞のサインであることがあるんです。
European heart journal で2012年に発表された論文を読んでみましょう。
新規の右脚ブロックを伴った心筋梗塞の院内死亡率は18%
チェコ共和国の8つの3次病院で2006年から3年間、心筋梗塞と診断され、冠動脈造影を受けた患者さんを対象に研究が行われました。
6742人の患者が対象となりました。右脚ブロックは6.3%の患者で認めました。TIMI flow 0(完全閉塞)していた症例は右脚ブロックで51.7%、左脚ブロックで39.4%(p=0.023)。左主幹部閉塞した症例のうち26%は右脚ブロックであった。院内死亡率は新規発症した右脚ブロックで18.8%であった(新規の左脚ブロック合併症例は13.2%)。
この研究が示すように”右脚ブロックの合併した心筋梗塞”の予後は悪く、今後のガイドラインにも組み込まれるかもしれません。ということで、今回は”右脚ブロックの合併した心筋梗塞の心電図”の読み方をやっていきましょう。
その前に、右脚ブロックの復習!
右脚ブロックの定義をすらすら言えるでしょうか?本編に入る前に簡単に復習をしてみましょう。
右脚ブロックの定義①
QRSの幅が0.12秒(3mm)以上の場合には完全右脚ブロック(0.12秒未満なら不完全)。
右脚ブロックの定義②
V1~2でM型のQRS(rsR’型が最も多い)。ST低下と陰性T波を伴う。
右脚ブロックの定義③
V5~6で幅の広いS波がみられる。
T波は陽性
どうだったでしょうか?今回の心電図解説の基本になってきますので、理解が怪しい人は振り返りながら読み進めてください。
右脚ブロックがあるとき、J点はどこ?
症例1:77歳男性 胸部不快感
77歳男性が胸部不快感を訴えて、あなたが勤務している救急外来に受診されました。受診時の心電図を示します。
どうでしょうか?右脚ブロックが合併しているとQRSの幅が広くなるので、STが上昇しているのか少し分かりにくいですよね。そんな時はこう読みます。
First step:分かりやすい誘導でQRSの幅を測る
まず、すべての誘導を眺めてみて、QRSの幅の決めやすいものを探します。今回はrsR’パターンのV1で見ると、赤くなっている幅になります。
Second step: QRSの幅が分かったら、ほかの誘導に当てはめてみる
QRSの幅がきまったら、他の誘導に当てはめてみましょう。J点は通常QRSの終わりにあります。図では赤い丸に相当し、STが上昇していることが分かります。
それではその二つのstepを踏んで前の心電図を理解してみましょう。
STが上昇しているか、わかりやすくなりましたか?
これでさらに分かりやすくなりました。
この症例ではⅠ、aVLでSTが上昇しており、側壁梗塞であると診断できました。その後、この患者さんは緊急冠動脈造影検査を受けて、第一対角枝(×が付いているところ)が閉塞しているところが分かりました。第一対角枝は側壁梗塞を起こす重要な血管でしたね。忘れてしまった人は復習をしておいてください。
V1,V2のT波は陰性ですか?
症例2:62歳女性 胸痛
62歳女性が胸痛を訴えて、救急外来を受診されました。その時の心電図を示します。
どうでしょうか?興味深い変化が表れています。V1とV2に注目してみてください。
Third step: ”M字型のQRS”が存在する誘導(特にV2)では、T波に注目!
QRSの形が”M型”の誘導(特にV2)ではT波は通常、陰性です(appropriate discordance:適切な極性不一致と呼ばれるそうです )。図のようにT波が陽性であった場合には、STが上昇していると考えます。
このThird stepに従って心電図を見返してみると、どの誘導でSTが上昇しているのか分かりやすくなりました。
この症例のまとめですが、ST上昇がV1~6で見られ、異常Q波がⅠ、aVL, V5~6で見られました。異常Q波が胸痛発症初期でも見られることを覚えていますか?診断は”広範囲前壁側壁梗塞”でした。実際の緊急冠動脈造影検査の結果は第一対角枝の閉塞でした。きれいに心電図所見とあってますね。
右脚ブロックを起こす心筋梗塞とは?
症例3:73歳 男性 胸痛
次の症例です。夜間の救急外来に73歳男性が胸痛を訴えて救急外来を受診されました。以下に初診時の心電図を示します。
QRSの幅が広く、どの誘導ででSTが上昇しているのか分かりずらいですね。先ほどのstep 1,2をあてはめて分かりやすくしてみましょう。
これでだいぶ分かりやすくなりました。どの誘導でST変化がみられるのか分かりましたか?
aVRとV1~2でST上昇がみられ、V5~6でST低下がみられます。他の変化にも気が付きましたか?
右脚ブロックに加えて、左脚前枝ブロック(LAFB)も合併しているのが分かりますか?この心電図は非常に予後が悪く、初療医としては見逃せないものです。
この症例のまとめですが、aVR, V1~2でSTが上昇し、V5~6でST低下がみられました。右脚ブロック(おそらく新規?)+左脚前枝ブロックも合併しています。前壁中隔梗塞で非常に予後の悪いことが分かります。緊急冠動脈造影検査の結果は左主幹部閉塞(図の×)でした。
Forth step: 新規発症した右脚ブロックを伴った心筋梗塞を見逃さない
新規発症した右脚ブロックを見つけた時、必ず覚えておかなければならないのは、このS1(第一中隔枝)より中枢で閉塞が起こった場合に起こる心電図変化。虚血によって障害される心筋の範囲によって多少変化はありますが、S1より中枢で閉塞した場合には典型的には左に示したような心電図所見を呈します。
では、なぜ第一中隔枝が閉塞した場合に右脚ブロックが起こるのでしょうか?右に示した通り、この第一中隔枝は心室中隔の基部を栄養します。その部位にHis束の遠位や右脚左脚に分かれる部分が存在するので、虚血になると伝導障害が起こります。
右冠動脈閉塞でも伝導障害が起こるのは前回の講義で述べましたが、今回のパターンのほうが予後が悪いことが感覚的にわかるでしょうか?冒頭に紹介した論文で新規発症の右脚ブロックの症例の予後が非常に悪かった理由も分かりますよね。症例3では閉塞がみられた位置も中枢でしたが、右脚ブロック+左脚前枝ブロックも起こしており広範囲に心室中隔が障害されていることが分かります。
まとめ
今回は右脚ブロックを伴った症例で心筋梗塞の心電図の読み方の講義でした。何か得られるものがあったでしょうか?初期版を見せた研修医に「英語が辛い」と言われてしまったので、次回からは日本語にしようと思います。Youtubeで講義を載せたので興味のある人は見てください。じゃ、また次回!
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