新型コロナウイルス:感染経路が不明でも疑う時は?(補足)

新型コロナウイルス
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新型コロナウイルス:感染経路が不明でも疑う時は?
みなさん、お久しぶりです。新しい心電図の講義を用意しようとしていると、日本がそれどころではないことになっています(2020年2月27日現在)。福井ではまだ患者は出ていないのですが、新型コロナウイルスが日本で流行の兆しを見せ始め、横浜などの都...

前回は現時点での新しい知見をなるべく早くシンプルに情報提供しました。基礎的事項や詳細事項は省略していましたので、より理解を助けるため追補版(補足版)を作成しましたので、ざっくばらんに気楽にお読みくださいね。

PCR陰性でCT陽性の新型コロナウイルス患者って、どんな人?

前回の記事に少し書いてあるのですが、胸部CTで新型コロナウイルス感染症を疑われたけど、初回のPCRで陰性だった人って、具体的にどんな臨床経過をたどっているのか興味ないですか?簡単に報告されている論文があるので紹介しましょう。

今回の研究は武漢にある放射線のデータベースを利用して行われました。ツイッターとかでは中国のいわゆる強権的な患者の隔離が話題になっていましたが、その一方でこのような近代的なシステムもあります。中国はとても2面性のある国で、決して侮ってはならない国だなという印象があります。
対象は最終的に新型コロナウイルスを分離できた人、少なくとも2回PCRで陽性になった人、遺伝子配列を調べて新型コロナウイルスと一致した人となっています。
全例、胸部CTが撮影されており、初回のPCRが陰性で胸部CTが新型コロナウイルス感染症の特徴が認められる症例の臨床経過を報告しました。

今回の研究では、対象患者が167人であり、初回のPCRが陰性でCTに新型コロナウイルス感染の所見が認められた人は5人(3%)でした。前に紹介した論文より低いですね。この論文では発症何日目に検査されたか不明であるため、発症早期のみの患者だけではなさそうです。一方、PCR陽性でもCT所見ない患者は7人(4%)存在しました

この62歳の女性は病院受診時ではPCR陰性で、呼吸不全を呈してはいませんでした。ただ、胸部CT画像はだいぶ派手にみえます。
その後、呼吸状態が悪化しています。まぁ一例だけでなんとも言えませんが、呼吸不全になる前から派手な所見が胸部CTに認められる一例であると言えそうです。

2例目の症例では発熱が認められる前から、胸部CTですりガラス陰影が認められています。こうまとめてみると、「発症早期から胸部CTに所見がみられる」というのは本当かなと思います。

ちなみにPCRの検体の採取部位によって陽性率が異なっているという報告があります。今回の論文では検体採取方法までは記載がないので、その点が分かりません。
ただし、痰からのPCR陽性率 76.9 V.S.咽頭スワブでのPCR陽性率 44.2%と、どちらも低いので、CTと比較した今回の論文には、あんまり影響はなさそうですが。

Comparison of throat swabs and sputum specimens for viral nucleic acid detection in 52 cases of novel coronavirus (SARS-Cov-2) infected pneumonia (COVID-19)
Background In December 2019, a novel coronavirus (SARS-CoV-2) infected pneumonia (COVID-19) occurred in Wuhan, China. Diagnostic test based on real-time reverse...

ところで、「おい、PCR陽性症例を胸部CTで4%見逃しているじゃないか」という意見があるかもしれません。でも、こういった症例は見逃しても大丈夫なことを気が付きましたか?
可能性として、
①ウイルス性肺炎が治った後に受診して、PCRが陽性になった人
②本当に軽症で肺炎を起こさなかった人
③初診のCT時ではウイルス性肺炎を起こしていないが、今後、起こす人。
の3パターンですよね。
①②のパターンは結局、外来で経過観察になるので見逃しても大丈夫です。③は今までの報告をまとめると比較的稀であると言えますが、こちらも症状が悪化しない場合には、外来で経過観察ですよね。
つまり、「どんな軽症な新型コロナウイルス感染症でも見つけて隔離しないとだめ」という段階から、「重症例をみつけて適切に治療を行おう」という段階に移行している今の日本において有効なスクリーニング方法であると思われます。
ちなみに論文ではほかに3例の報告も載っているので、参考に読んでみてください。

Just a moment...

感度高い?本当にスクリーニングで役に立つの?

「教科書で陽性尤度比が重要だって聞いたのに、胸部CTの感度が高いとかで勧めて大丈夫ですか?」というような意見もあると思います。結論から言うと大丈夫です。「スクリーニングには、感度が高い検査を使う」というのが常識であるからです。
では、みんな大好き2×2のクロス集計表を使って考えてみましょう。

もう一度、原著論文を復習してみましょう。

Just a moment...

対象期間に対象病院を受診した患者で、①武漢または流行している地域に渡航or在住歴、14日以内にそのエリアにいて熱または呼吸器症状のある人と接触した人+②原因不明な発熱or呼吸器症状のある人。そして、RT-PCRを3日以下の間隔で受けている人で、最終的にPCRで新型コロナウイルスが確定診断された人です。
つまり、PCRを行う理由のある人(臨床診断で)でPCRで確定診断を受けた人を対象に行って、CTで感度を計算しました。この研究の構成は、以前、紹介したSARSのPCRの陽性率を求めた論文と同じですね。これは”まったく関係のない人にPCRをやって、疑陽性になった人”を含まないためなんですね。

では、仮に働いている地域が特殊なところで、発熱、咳嗽を訴えて受診した患者のうち、10人に1人が新型コロナウイルス感染症であるとしましょう。やばいですね。
また、この地域では、発熱や咳嗽を発症してから3日内に胸部CTを撮影したら、新型コロナウイルスではない、ウイルス性肺炎像を疑うすりガラス陰影が5%の患者に認められたとしましょう。(実際の臨床では、免疫抑制状態など特殊な既往歴がないと、発熱や咳嗽を発症してから3日目のCTでウイルス性肺炎の画像を呈する人はほとんどいないですよね。)
スクリーニング、つまり、ある疾患を否定するための検査をするときには、陰性的中率を計算します(陰性的中率=本当にCOVID-19でない人/検査で陰性な人)。
そうすると、この厳しい環境でも、発症3日目の胸部CTで陰性なら99.77%新型コロナウイルスではないです。現状、こんな頻度の高い地域は日本にはないと思います。

次は、咳嗽、発熱を訴えて受診する人が、100人に1人が新型コロナウイルス感染症であると仮定しましょう。だいぶ、まだ頻度が高いですが、これでも胸部CTに対する陰性的中率は99.98%です。

じゃ、発症3日目の咳嗽や発熱の患者に胸部CTを撮ると、10%に(新型コロナウイルスではない)ウイルス性肺炎像を認める地域としてみましょう(コロナ以外のヤバいことが起こっている可能性が高いですw)。この場合でも、胸部CTの陰性的中率は99.98%です。
つまり、感度が高い検査を頻度が低い疾患に対して使うと、ほぼその疾患を否定できるんですね。

ここまでだいぶ丁寧に説明してきましたが、「統計や研究って苦手」って人がいると思います。その場合には、なんと、福井大学医学部大学院救急医学講座で学ぶことが出来ます。

救急医学 | 福井大学医学部

僕も授業していますし、指導教官になることもできます。無給医問題は福井大学は無縁で、給料もちゃんと出ます給料ももらえますよ(大切なことなので2度言いました)。卒業後は海外留学のチャンスがあります。
ということで、大学院の宣伝でした。

新型コロナウイルスの患者にCT使うなんて、大丈夫?

新型コロナウイルス感染の検査でCTを安易に使えない理由|Dr.純子のメディカルサロン
新型コロナウイルスの感染が広がっています。 そんな中で、最近発表された論文で、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法の検査で陽性反応が出る前に、コンピューター断層撮影(CT)所見が判明した例があり、CTを撮れば、コロナウイルスの感染の早期発見やスクリーニングができるのでは、という意見…

まとめると
・確実なデータがない
・CTで早期検出には有用だろう
・特異的ではないので、確定診断は出来ない
・でも、疑わしいすりガラス陰影をみつけたら、「新型コロナ疑い」とレポートに書く
・感染対策が大変

この理事長さんが言うことをまとめると、「CTがスクリーニング(つまり除外するためだけの検査)には有効なことを認めているんじゃないかな」と思ってしまいます。普通は「確定診断はPCR」でするので、CTはスクリーニングにしか使わないですよね。
一方、福井大学附属病院では、「コロナを疑ったら、極力CTを使わない」方針です!
う~、どうしたらいいんだ?
ちなみに、友達が働いている横浜の病院では、新型コロナウイルス感染症で胸部CTに特異的な所見がみられることが分かってきているので、夜間の当直帯にも放射線科医の読影が付くことになりました。病院によって体制がだいぶ違うんですね。

新型コロナウイルス疑ってCT使ったら、消毒が大変だろ!

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長 高山義浩先生のFacebookの投稿より、日本はだんだんと「武漢に行ってきました」とか「両親が実は新型コロナウイルスでして、、、」といった疫学リンクが追える症例だけではなくなってきています。
「感染経路が不明でも新型コロナウイルスに感染している患者」が一般外来や救急外来を訪れる可能性が今後あり、疫学リンクが追える人だけに感染症対策を行うのでは不十分になる可能性があります。

https://medical-tribune.co.jp/news/2020/0302524507/

まぁ、こういうことやね。
つまり、「除染が大変だから、CTは使わないで」ではなく、「今後は発熱の患者のなかに、市中感染の新型コロナウイルス感染症が含まれる可能性があるから、どんな人を対象にどんな感染症対策を行うのか?(窓口分ける?防護は?検査は?)」という施設で取り決めを作ることが大切になってくると思います。

* 2009 年に流行し大きな脅威になると思われた“新型インフルエンザウイルス(pdm2009)”は、 近年流行している A 型インフルエンザの主流です。日本の医療体制は今回の新型コロナウイルス 感染症に対しても十分対応でき、重症化の可能性も低いと思われます。

新型コロナウイルス感染症に関する都民の皆様へのお願い
https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/application/pdf/covid-19.pdf

2009年に流行した新型インフルエンザが、気が付けば今流行しているA型インフルエンザの主流になったように、新型コロナウイルスがいつしか市中感染でよく見るウイルスになってしまうのでしょうか?

ただ現状では、現場で診療する医師も「市中感染の新型コロナウイルス感染症」をPCRだけで診断しようとして見逃し、患者が後日、重症化したり、院内感染の原因になったりすると訴訟が起こったり、面倒なことが起こったりするかもしれません。
そんな時に、「そういや、CTが使えたな」と思い出してみてください。

ということで、今回は前回の講義の補足を行いました。
次回は「まじか、症状出る前からCTで所見でるのか?」をお届けします。

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